(※写真はイメージです/PIXTA)

2020年の夏には米議会下院ではGAFAと呼ばれる巨大IT企業の経営トップが証言する公聴会を開いた。独占禁止法違反でアマゾン包囲網が着々と進んでいるようにみえたが、あえなく崩壊した。その理由は。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

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    アマゾンの餌食になるか、生き残るか?

    2020年8月、アメリカのスーパーマーケットチェーンのクローガーがEC事業パートナーのミラクルと手を組み、外部販売事業者に出店してもらう形式のサードパーティ向けマーケットプレイス構想を発表した。なお、パートナーのミラクルはB2C(消費者向け)とB2B(企業間)のECサイト構築に特化した企業だ。クローガーによれば、計画されているマーケットプレイス構想では、食品にとどまらず、家庭用品や玩具、銘品・名産品などのカテゴリーを用意するという。

     

    その18カ月前の2019年2月、クローガーの競合スーパーであるターゲットも、同様の計画を発表している。同社では、小規模実験として外部販売業者を取り込んだサードパーティ向けオンラインマーケットプレイス「ターゲットプラス」を開始する。外部業者の出店は完全招待制で、マーケットプレイス内のスペースが提供される。当初は30店を迎えて6万点の品揃えとする。2020年2月には全109店、商品数16万5000点に拡大した。

     

    この2社に限らず、外部業者を巻き込んだECサイト、つまりサードパーティ向けマーケットプレイスの開設を競う小売業者は、続々と増えている。運営元の小売業者にとっては、在庫が不要で、物流の手間もかからない。マーケットプレイスで売り上げがあれば、単に手数料を徴収するだけでいい。

     

    このような環境づくりを急ぐ理由はいくらでもある。アマゾンやウォルマート、京東、アリババといった企業は、伝統的な意味での「品揃え」を単に破壊してきただけである。たとえば、アリババのECサイトでは何百万もの業者がひしめき合っている。アマゾンでは、3億5000万点以上の商品を直接販売するか、外部業者に代わって販売している。そのような方法で、消費者が何かほしければ、とりあえず頼る場になっているのだ。だから、怪物企業以外の大手小売業者は客離れを一番恐れている。

     

    そこで競争が激化していると察知した全国規模の大型チェーンは、サードパーティ向けマーケットプレイス戦略を打ち出し、頂点の怪物企業に対する弱点をカバーしようとするのだ。このモデルなら、在庫に資本を振り向けたり、仕入れ交渉に疲弊したりすることなく、品揃えを拡充できる。

     

    小売り関連のニュース専門サイト『リテールウィーク』の最近の報道によれば、外部事業者が出店するサードパーティ向けマーケットプレイスを「運営中」あるいは「開設を検討中」と回答した小売業者は44%に上った。

     

    前出のミラクルの共同創業者・CEOのエイドリアン・ヌッセンバウムは、サードパーティ向けマーケットプレイスの運営のほうが自社単独のECサイトに勝るメリットがいくつかあると見ている。第1に、ほとんどの小売業者は、商品を消費者の手元に手際よく届けて十分に利益を確保できるほどの体制が整っていない。収益性の面から言えば、ネットで購入して店舗で受け取るクリック&コレクト方式は優れているが、宅配方式の利便性にはかなわない。

     

    それゆえ、小売業者は、依然として消費者の期待に応える品揃えと配送体制を整えておかねばならない。品揃えと配送体制という2つの柱は、小売業者がマーケットプレイスを構築するうえで欠かせない。ヌッセンバウムによれば、品揃えに対する高いニーズに応えなければならないが、品揃えが良ければ、小売業者単独のECサイト売上高よりも純利益率は大幅に高くなる。

     

    『フォーブス』誌2020年4月号に、ヌッセンバウムを取り上げた記事がある。それによると、サードパーティ向けマーケットプレイス運営がもたらす利益が、自ら実店舗で稼ぎ出す利益さえも上回る可能性があるという。ヌッセンバウムは、「(実店舗の)平均の粗利が45%前後で、営業利益は2.4%」と説明する。ほとんどのECサイトは、実店舗より利益率が10~15%も下回っているという。

     

    だが、サードパーティ向けマーケットプレイスの場合、「通常、テイクレート(取引額のうち、運営業者の取り分の割合)は12~20%を確保でき、運営業者の売上高利益率は6.8%になる」(ヌッセンバウム)。つまり、サードパーティ向けマーケットプレイスは、実店舗の2~3倍の収益力を持っていることになる。

     

    このようにマーケットプレイス運営業者は、委託手数料が転がり込むだけでなく、広告収入、取引手数料、サブスクリプション料金を確保する道も開ける。だが、サードパーティ向けマーケットプレイスにはリスクもある。この手のサイトを利用したことのあるユーザーならすぐに思い当たるはずだ。ひどい目に遭うことが多いのだ。サービスの質は出店業者によってムラがあり、配送のスピードも、アマゾンなどの水準と比べると見劣りする。要は、マーケットプレイスは、厳格に管理しなければ、運営元の評判はガタ落ちになり、金銭的メリットなど吹き飛ぶほどのダメージになる。

     

    全国展開をしているような大手小売業者なら、そのリスクを覚悟で取り組む必要がある。ほかに生き残りの道はないからだ。アマゾンが実店舗などの業態のネットワーク強化を図り、ウォルマートがオンライン販売と物流体制の拡充に乗り出す狭間で、クローガーやターゲットといったアメリカの大手小売りチェーンには選択の余地はない。手をこまねいていれば、ただただ怪物の餌食になるだけだ。

     

    ダグ・スティーブンス
    小売コンサルタント

     

     

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

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    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

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