「ぼんやりと死ぬことを考えていた」
しかし、高校、大学に通う孫を抱えている子どもたちに、経済的な負担をかけたくないという気持ちもあり、また一流企業のエリートコースを歩んだプライドもあり、子どもたちには相談ができませんでした。
しかし、だからといって、終の住処として購入したマンションを手放す気にはなれなかったそうです。そこで、つい消費者金融からお金を借りてしまったのです。
最初に借りたのは、奥さんの老人ホームに支払うために必要な3万円でした。ところが、借入額はどんどん増えていき、やがて複数の会社から200万円以上を借りるようになりました。
Aさんは誰にも相談できないまま、返済に悩んでいたそうです。そしてある日、線路脇にたたずみ、ぼんやりと死ぬことを考えていたところ、私が理事長を務めるNPO法人の職員に声をかけられ、すんでのところで自殺を思いとどまりました。
結局、Aさんはマンションを2000万円で売り払い、手頃なアパートに引っ越しました。豊かな老後を迎えるはずが、終の住処になるはずだった都会のマンションで暮らせたのは、3年ほど。購入時の価格は4000万円でしたが、売却費は半額程度になってしまいました。その売却代金で、借金をすべて返済し、残ったお金で細々と生きていくつもりだといいます。
Aさんの経済状況は、かなり恵まれていた部類だと思います。預金額も十分でしたし、年金額も平均よりかなりもらっています。それでも、高価なマンションの購入と、奥さんの認知症という2つの大きなアクシデントによって、自殺を考えるところまで追い込まれてしまったのです。
今後、日本は国力の低下が予想されています。高齢者が増えて社会保障費はふくれあがるばかり。一方、少子化によって若い世代は少なくなり、税収は伸び悩みます。そうなれば、医療費負担の増額や、年金支給額の削減が進む可能性は大です。
高齢者の経済環境は厳しくなるばかりです。特に危険なのは、このようにある程度経済的ゆとりがあり、将来に向けて不安を感じていない元中流サラリーマン層なのです。
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