幻冬舎ゴールドライフオンラインの人気エッセイ『嫁姑奮戦記』。病院を騒がせる姑と嫁のやり場のない戦い。介護する側、される側。それぞれの思いを連載でお届けします。

「知らんで」と言う。そこらを捜すが見当たらない。

しばらくして看護婦さんが病棟内を案内してくださる。姑と二人で付いて回り、分からないことがあれば聞いてくださいと言われ、私たちは部屋に戻る。外のトイレを利用して戻ってみると、姑がまた袋の中味を全部ベッドにぶちまけている。見ると先程あった財布がない。

 

「おばあちゃんお財布ないけど、ちゃんとどっかにしまったんやね」と聞くと、「うち、知らんで」と言う。ほんの四、五分の間のことだ。そこらを捜すが見当たらない。

 

ベッドの間、ロッカー、テレビ台の下、トイレ、洗面台の下、冷蔵庫の中まで捜すが見つからない。別に今使うわけでもないし、そのうち出てくるわと捜すのを打ち切るが、一応詰所にだけは言っておく。

 

「たった一週間の入院やからあっという間やわ」と声をかけるが「そうやな」と生返事。トイレの戸の開け方やナースコールの使い方を教えたり、ロッカーやテレビ台の下の物入れや引出しに入れてある物を確認させたりする。

 

部屋には付き添い用のベッドも夜具も用意されていないので、泊まらなくても大丈夫かと詰所で尋ねるが、大丈夫でしょうという返事。完全看護が導入されたから、よほどの場合以外、付き添いは駄目になったらしい。

次ページさてはと思い「また、何かやらかしたのでしょうか」
嫁姑奮戦記

嫁姑奮戦記

大野 公子

幻冬舎メディアコンサルティング

入院早々骨折、幻覚幻聴、物忘れ……病院を騒がせる姑と嫁のやり場のない戦い。 介護する側、される側、双方には今日に至るまでの歴史がある。 血縁だけでは語れない愛がそこにはあった。 嫁が綴った過去の日記をもとに、「…

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