新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

国内富裕層も足を向けなくなった百貨店のゆくえ

今回のコロナ禍では物販店や飲食店の売上は大幅に落ち込んだいっぽうで、食品を中心に扱うスーパーでは売上が上昇した店が多かったのですが、ポスト・コロナ時代ではおそらく買い物という行動そのものが面倒くさい行動と評されるようになるでしょう。

 

牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)

この動きに一役買うことになりそうなのが、AIです。これまでスーパーに食料品を買いに行くという行動は、スーパーの棚に並んでいる、美味しそうな食料品を眺めながら、今夜のおかずを考えるという効用がありました。

 

ところがポスト・コロナの時代では毎日のおかずの内容についてはAIが、本人や家族の健康状態や季節、気温、湿度などを勘案して、その日の最適なメニューを割り出すようになるはずです。そうなれば、もはやスーパーに出かけてボケッと棚を眺めながらメニューを考えるなどという行動は、多くの人にとって無駄な時間ということになるでしょう。

 

通勤に加えて、毎日のおかずを探しにスーパーに行く買い物時間からも、人々は解放されることになるのです。

 

では百貨店はどうでしょうか。百貨店自体は90年代半ばに売上などではピークを迎え、その後は業績を落とし続けてきましたが、この業界にとって干天の慈雨となったのがインバウンドです。初めのうちこそ、インバウンドが老舗の百貨店などで「爆買い」する姿に眉を顰める向きもありましたが、高級化粧品や宝飾品などの売上が上昇するにつれ、百貨店にとっては上客になっていきました。

 

インバウンドが来ないことに加えて、国内富裕層も店に足を向けなくなったコロナ禍は百貨店の経営に大打撃を与えましたが、おそらくこの百貨店という業態は、ポスト・コロナ時代には相当変化しているのではないかと思われます。

 

インバウンドそのものは、コロナ禍が収まるにつれて徐々に戻ってくるでしょうが、彼らがまた百貨店の化粧品や宝飾品の売り場を占拠するようになるとは思えません。それは日本人がかつて、海外旅行が解禁になり、一斉に欧米に団体旅行に繰り出し、現地の百貨店や専門店に押しかけて「爆買い」した姿と重なるからです。

 

中国などではまだ自国の製品や海外ブランド品に偽物があることから、自国での買い物を信用しない傾向がありますが、かつての日本がそうであったように中国も自国内に洗練されたマーケットを持つようになれば、日本での買い物に血眼になることはなくなるでしょう。すでにその兆候が各地で顕在化している状況を鑑みるに、百貨店がインバウンド需要一本槍でこの先も凌げるとは思えません。

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不動産激変 コロナが変えた日本社会

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