高齢となった父親は元経営者。末っ子長男は二代目社長となり、娘たちは父親の庇護のもと、広い実家で自分の配偶者や子どもたちとともに共同生活をしています。将来の相続が心配になった長女が父親に状況を尋ねると、「息子には不動産、娘たちには有価証券と現金」というプランを話してくれましたが、そこにはいずれ解決しなければならない、ある問題をはらんでいました。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

 

青木さんの父親は、会社関係の不動産を長男に相続させて、娘3人には現金のほか、保有している上場会社の株式を分ければいいと考えているようですが、筆者は、相続税を節税するのであれば、株式をそのまま相続するよりも、生前に不動産を購入して評価を下げてもらうのも選択肢であると提案しました。

 

 

父親が日常的に株取引をしていないのであれば、解約・換金して、不動産を購入して賃貸しておくほうがメリットがあります。

早めに遺産分割を決め、遺言書の作成を

また青木さんは、二次相続を考え、父親の財産は母親ではなく、子どもたちで引き受けるようにしたいそうですが、そのためにも節税対策をして評価を下げておくことが望ましいといえます。

 

その方法として、自宅に住む長女と次女が相続し、特例を活かせば節税になります。また、事業用の特例の活用でも節税できます。いずれにしても、父親には遺言書を用意してもらうことが必要でしょう。

 

筆者がお勧めする対策として、下記のプランがあります。

 

金融資産を解約して賃貸不動産を購入しておく

遺産分割を決めて遺言書にしておく
  たとえば、会社の不動産は長男。自宅は長女と次女。
  賃貸不動産は長女と次女と三女。ほかの金融資産は等分、など。

 

自宅に含まれている、居住していない長男の名義ですが、こちらについては将来遺贈してもらうか、もしくは時期を見て家自体を売却して分け、それぞれ住み替えることが妥当だと思われます。

 

青木さんと妹さん2人は、筆者の提案を受け、「両親ときょうだいとで、もう一度しっかり話し合ってみます」といって、資料を持ち帰りました。

 

両親は高齢ながらお元気でしっかりしており、人柄もフランクなご様子。また、現在のきょうだい仲も良好で、いがみ合いや腹の探り合いもありません。できることならこのまま円満な関係を継続していただきたいと願っています。しかし、父親は90歳と高齢で、いつ何があってもおかしくありません。家族間での話し合いを急ぎ、父親が元気なうちに遺言書を作成してもらうことが大切です。

 

青木さんのケースに限ったことではなく、「家族関係は良好だから、遺言書などなくても大丈夫」という考え方は少々楽観的に過ぎるといえます。「万一」のトラブルが起こらないよう、先の先を見越して慎重に対策を進めることが、円満な相続の実現と、これまでと変わらない円満な家族・親族関係の継続を促すものとなるのです。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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