新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

「これからの世代」が意外とステレオタイプの発想

奥さまは、やはりお子さんのことを第一に挙げた。

 

「このマンションが完成する2年後には、上の子が小学校でしょ。今の家は2LDKで部屋は狭いし、子供部屋も持ちたいのです。幸いマンションには保育園も併設されるみたいなので、子供を預けて通勤できるのもいいですよね」

 

「でも、年間280万円といっても35年間は長いですよね。大丈夫ですか」

 

と聞くと、

 

「ええ、たしかに。でもこれから給料は増えるだろうし、退職時に残債が少し残るけれど退職金で返してしまえばよいし、これからも生活は切り詰めて、そのつど、期限前返済もしていけば、なんとかなると思っています」

 

続いてAさん。

 

「僕も、人生が住宅ローンに縛られるのはちょっとどうかな、とは思っていますが、家族のためだし。それにローンを払っていれば、いずれ自分のものになるわけでしょ。この場所はオリンピック後も発展すると聞いたので、途中で売れば儲かるかもしれないじゃないですか。ま、それもありかな、って思ってるんです」

 

でも、どうしてそんなに家を「買わなければならない」のか、そんな私の質問に対して奥さまは、

 

「たしかに大丈夫かな、とは思います。でも今買っておかないと、一生賃貸というのも不安なんです。だって、マンション価格はどんどん上がっているし、家賃を払っても自分のものには一生ならないわけでしょ。それに家族向けの賃貸住宅は、ろくなものがないというじゃないですか。歳取ると貸してくれないとも言いますし。ローン組むなら若いうちからのほうが返済は結果的に楽だと思ったんです」

 

私はこうした会話に、実は驚きを禁じえなかった。それはネット世代とも言われ、世の中のあらゆる情報を瞬時に取り入れ、それを活用しながら「しなやかな」生き方をする「これから世代」の彼らが、家については意外とステレオタイプな発想に留まっているからだ。 

次ページ「何のために家を持つのか」の意外な答え
不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

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