ビジネスで海外の人々と関わる際、自国の歴史の知識は必須だといえます。しかし、日本人が注意しなくてはならないのが「外国人に関心の高い日本史のテーマは、日本人が好むそれとは大きく異なる」という点です。本連載は、株式会社グローバルダイナミクス代表取締役社長の山中俊之氏の著書『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)から一部を抜粋し、著者の外交官時代の経験をもとに、外国人の興味を引くエピソードを解説します。

 

石門心学とは、一言でいうと、町人に対して道徳意識を教えるために生み出された仏教・儒教・神道が一体化した思想といわれ、心と自然が一体となり私心をなくし無心の境地を目指すものです。江戸時代後期には門人が全国的に広がりました。

 

この石門心学は、封建時代の思想の中ではかなり先進的とみなされています。私が知る限り、海外には自然と一体となり無心の境地を訴える思想は多くはなく、サステナビリティが叫ばれる今、再注目されつつあります。

 

梅岩は、丹波国(現在の京都府亀岡市)の農民の次男として生まれました。その後、呉服屋での奉公などの経験を経て、45歳で塾を開きます。その塾では性別に関係なく多くの塾生を受け入れて石門心学を説きました。

 

私心なく世の中に尽くすべきという教えは、現在のCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)にもつながる概念として再評価されてきています。日本各地のビジネスセミナーでもCSRやSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)と関連させて、石門心学の先進性について言及されることがあります。

 

石田梅岩が活躍したのは18世紀前半。このような封建時代に現代の最先端の議論に繋がる思想が、農民出身者によって定立されることになったというのは海外の人々から見てもやはり驚きだと思います。石田梅岩の石門心学は、江戸時代の庶民の教育レベルが高かった一つの例といえるでしょう。

もし江戸時代に「ノーベル賞」があったら…

江戸時代における自然科学系の教育レベルの高さは偉大な科学者を生み出しました。

 

学校の日本史の授業では、どうしても政治や経済の話が中心になり、芸術文化や科学のことは後回しになりがちです。しかし、海外の人たちと話をするためには、芸術文化や科学の分野で世界における日本の先進性を知っておくことが重要です。

 

科学の分野で大きな功績を残した一人は、華岡青洲(はなおかせいしゅう)です。

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世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ

世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ

山中 俊之

朝日新聞出版

ビジネスで海外の人々と関わるのであれば、自国の歴史の知識は必須だ。しかし外国人に関心の高い日本史のテーマは、日本人が好むそれとは大きく異なる。本書は海外経験豊富な元外交官の著者が外国人の興味を引くエピソードを解…

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