年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、介護に絡むトラブル事例を、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

「介護を人に頼むなんて」無責任な義理の兄弟姉妹

「本当に、口先だけで何もしないんですよね」

 

A子さんの憤りは、夫のBさんやその兄弟姉妹に向けられています。

 

Bさんは、4人兄弟の3番目。上に姉と兄、下に妹がいます。兄弟姉妹のなかで、唯一、地元の会社に就職をしたBさんは、A子さんとの交際が始まっても実家暮らしを続け、結婚生活はBさんの両親と同居する形で始まりました。

 

「義親はとてもいい人で、同居することにためらいはありませんでした。『これからは女性も社会に出て働くべき』と応援してくれるし、子どもが生まれたら、世話をしてくれるし。本当に同居して良かったと思ったんですが……」

 

そんな生活に変化が生じたのは、高齢になった義親に介護が必要になったころ。足腰が悪くなってきたので、家をバリアフリーにリフォームするなどして対応していましたが、年齢を考慮し、週に何度か、訪問サービスに来てもらうことを検討し始めました。

 

そこで口を挟んできたのが、兄弟姉妹だったのです。「今まで実家に住まわせてもらったり、子育てを手伝ってもらったりとサポートしてもらったのに、介護を人に頼むなんて」というのです。

 

「自分たちは、実家から離れて暮らしているから、とかいうんですよ。でもお義姉なんて、電車で1時間程度のところですよ、住んでいるところ。それなのに、すべてをわたしに押し付けて」

 

A子さんの愚痴は止まりません。

 

「自分たちの親なのに、全員他人事。どうなっているんでしょう、あの人たちは!」

 

A子さんの愚痴は止まりません。

 

「旦那も旦那ですよ。『確かにそうだな』って、まったく反論せず。じゃあ旦那が義親の面倒をみるのかといえば、『おれは仕事で忙しいから』って。わたしも仕事しているって話ですよ!」

 

兄弟姉妹への不満はあるものの、義親にはこれまでお世話になってきたし、肉親と同じくらい感謝をしています。「やれといわれなくても、わたしはやりますよ」と、仕事と介護との2重生活をスタートさせました。

 

最初は、介護休暇などを駆使して何とか両立させていこうと考えましたが、想像以上に介護は大変で、体力勝負。このままでは自分が潰れてしまうと思い、Bさんに相談しましたが、兄弟姉妹のことが気になるからと、あてにならず。結局、A子さんは会社を辞めることを決意しました。

 

「子どもも独立して、旦那も働いているから、将来の心配もない。あの人たち(=夫やその兄弟姉妹)に不満を感じ続けるくらいなら、スパッと仕事を辞めて、お義父さん、お義母さんとの生活を大切にするほうが、心穏やかに過ごせるかなと思ったんです」

 

こうして、A子さんは義親の介護を一手に引き受けることになったのです。

 

義父が他界…残された遺言書の内容に兄弟姉妹は絶句

義親の介護生活が3年ほど続いたある日、義父の病が重くなり入院することに。それから半年ほどして、義父は他界しました。

 

葬儀が終わってから1週間ほど経ったある日、実家に4人の兄弟姉妹が集まりました。義母(4人とっては母)が遺産分割のことで話がある、というのです。リビングに集まった4人の前に、A子さんに車いすを押してもらった義母がやってきました。

 

義母「葬儀が終わったばかりなのに、申し訳ないね」

 

義姉「お父さんの遺産なんて、そんなにかしこまって話すこと?」

 

義母「お父さん、遺言を残してくれているの。これがそのコピー。本物は役所にあるから、今日はこれをみんなの前で読もうかと思って」

 

義兄「へえ。お父さんが遺言書。柄でもないね」

 

A子夫「そうだよね。面倒臭がりな人だから、そんなマメなこと、するとはね」

 

義妹「靴下が脱ぎっぱなしで、よくお母さんに怒られていたもんね」

 

義母「いいから、読むわよ」

 

義父が残した遺言書を読んでいくと、遺産は「実家と義父名義の預貯金3,000万円ほど」とあり、「実家はA子夫に相続する」「預貯金は1,000万円は義母、残りはA子さんに相続する」と書かれていました。この内容を聞いて、兄弟姉妹は「えっ!?」と一瞬、言葉を失ったといいます。

 

義兄「ちょ、ちょ、ちょ、待って。実家のことはわかった。妥当だと思う。でも2,000万円をA子さんに、というのは、理解できない」

 

義姉「そうよね。本来、A子さんは相続人じゃないし」

 

義妹「その遺言書、本当にお父さんが書いたものなの? 偽物なんじゃないの?」

 

A子夫「おい、お前(=A子さん)、お父さんに何かいったのか?」

 

義母「ちょっと待って。これはお父さんが病気になる前に書いたの。きちんとわたしにも相談があって、作ったものよ」

 

兄弟姉妹「えっ……」

 

義母「A子さんには、この家に来てもらってから、本当にお世話になりっぱなし。仕事を辞めてまで、わたしたちの面倒をみてくれている。2,000万円じゃ足りないくらいよ」

 

兄弟姉妹「……」

 

義母「それに引きかえ、あなた達ときたら。何もしないくせに、口出しばかりして。本当に情けないといったら、ありゃしない」

 

こうして、義父が残した2,000万円の預貯金は、A子さんが相続しました。そして義母は相続した1,000万円をもとに、施設に入居したそうです。

 

「これからも、お義母さんと暮らしていきたいといったんですけど、『そろそろプロの手を借りないと大変よ』と、頑として譲ることはなかったんです。『仕事に復帰できるなら、復帰してね』っていってくれて。本当にお義父さんも、お義母さんも、素敵な人なんです」

「特別の寄与」では介護の苦労は報われない!?

相続人以外の親族が亡くなった方の介護に尽力したのに、いざ、相続が発生しても何も報われない。このような不公平なケースを是正しようと、2019年7月1日に相続法は改正され、「特別の寄与」という制度が始まりました。

 

それにより、「相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、相続人に対して金銭の請求をすることができる」ようになりました。

 

「特別の寄与」のポイントは3つ。

 

まず「特別寄与者となれる」のは、亡くなった人の親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)だけです。たとえば内縁の妻がどんなに介護をがんばっても、特別寄与者にはなれません。次に「権利行使期間」は、相続開始及び相続人を知った時から6カ月以内、かつ相続開始時から1年以内とされています。そして「特別寄与料の額」は、相続人が複数存在する場合、各自が法定相続分に応じて特別寄与料を負担するとされています。

 

しかし「特別の寄与は簡単には認められない」という懸念があります。この制度はスタートしてまだ日が浅く、何ともいえない部分がありますが、相続人に認められてきた寄与の概念がそのまま新制度にもスライドして適用され、「特別の寄与」が認められるのは、非常に厳しいと考えられるのです。

 

「寄与」が認められるための要件は非常に多く、さらに客観的な裏付け資料を提出する必要があります。さらにどれくらい寄与料として認められるかは、介護保険における介護報酬基準をもとに計算されます。想像以上に請求できる金額は少ないと考えておいたほうがいいです。

 

このように考えると、介護に尽力してくれた相続人以外の人に遺産を残したいと考えるのであれば、遺言書として残すのが確実です。遺言書は相続人全員が同意をした場合、内容を変更することが可能です。裏を返すと、一人でも「わたしは遺言書の通りに遺産をわけたい」という人がいる場合には、遺言書の内容が優先されます。事例であれば、お義母さんが反対することはないでしょうから、スムーズに遺産分割が進むというワケです。

 

 

【動画/筆者が「小規模宅地等の特例」について分かりやすく解説】

 

橘慶太
円満相続税理士法人

 

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