東京23区内でも利回りが出づらくなり、郊外や地方物件も空室率上昇の問題が本格化するなど、不動産運用の先行きに不安を持つオーナーは多い。本連載では、株式会社フェイスネットワーク代表取締役社長・蜂谷二郎氏に、長いスパンで見た資産形成の手段としての不動産投資の魅力、そこで勝ち残るためのポイントなどを伺っていく。第2回目のテーマは、 不動産投資において「地方物件、中古物件、サブリース、節税対策」等を組み込む際の留意点についてである。

「真の目利き」が必要な中古物件の購入

不動産に限らず、投資の世界では永遠に通用する「成功の方程式」は存在しない。早耳の人がその存在に気づいて大きな成功を手にすれば必ず追随者が続出し、結果的に旨みが薄れて同じ結果は得られなくなる。

 

 

その典型例ともいえるのが不動産投資における利回りだ。投資経験者にはおなじみだが、不動産投資の利回りとは「年間の家賃収入÷物件の取得費用」という計算式で算出した数値である。

 

これはあくまで表面利回りにすぎず、その物件に投資妙味があるか否かは、「(年間の家賃収入−年間の経費)÷物件の取得費用」の計算式で算出する実質利回りで判断するのが基本である。単純に高ければよいとは言いきれないが、投資の判断基準の大きな目安である。

 

このような利回りの魅力も、不動産投資がブームと化したのに伴い、薄れていったというのが現状である。前回取り上げた、不正融資の問題で表面化した「本来なら手を出すべきではない属性」の人までもが不動産投資へ参入した影響もあり、特に都心の人気エリアは不動産価格が高騰、利回りは低下の一途をたどったからだ。

 

次第に投資家の関心は、新たに物件を建てるケースと比べて初期投資が抑えられ、利回りも期待できる中古物件へと向けられていった。しかし、中古物件は設計・施工はもとより、築年数やそれまでの管理状況が千差万別で、まさに「玉石混交」である。

 

たとえば、きちんと確認したつもりでも購入後に修繕すべき箇所が見つかるケースも少なくない。株式会社フェイスネットワーク代表取締役社長の蜂谷二郎氏はこう語る。

 

株式会社フェイスネットワーク 代表取締役社長・蜂谷二郎氏
株式会社フェイスネットワーク
代表取締役社長・蜂谷二郎氏

「新築物件と比較して、中古物件において認められる瑕疵担保責任(欠陥が発覚した場合に売り主が負う修復義務)は限定的です。実際、私どもとお付き合いのあるお客さまも過去に築30年のマンション1棟を購入し、苦い経験を味わったそうです。ユニットバスの欠陥が発覚して交換が必要になったのですが、民法で定められる瑕疵担保責任の要件を満たしていないと判断され、結局、自腹で負担することになったのです。そのうえ、規格が古くて同じサイズの製品がもはや流通しておらず、別注扱いで数百万円もの出費となりました」(蜂谷氏)

 

こうした想定外の経費がかさめば、冒頭で触れた実質利回りが著しく低下するのはいうまでもない。中古物件の購入には「真の目利き」が必要なのだ。

 

 

表面利回りが高くても空室が出れば「絵に描いた餅」

都心の人気エリア同様に、優良な中古物件の価格も上昇し、利回りも低下傾向を示してきた。さらには「地方物件ならまだ安いから高利回りを狙える」と勧誘する業者も出てきたが、その発想にも大きな落とし穴が潜んでいる。

 

 

「当社とのお付き合いが始まる前に、ある業者から勧められて札幌の中古賃貸マンションを1棟購入した東京在住のお客さまがいらっしゃいました。当初の利回りが15%と高水準で、札幌のように北海道随一の大都市なら安定的な需要もあると見込んだようです。ところが、1年目こそ満室だったものの、2年目に3戸も空室が発生し、何ヵ月も次の入居者が見つかりませんでした」(蜂谷氏)

 

地方都市の賃貸物件需要は季節性に左右されることも多く、これはレアケースとはいえない。進学や異動が絡む引っ越しシーズンだけに入居の需要が集中しがちで、その時期とは異なるタイミングで空室が発生すると、新たな入居者がいないケースが少なくない。さらに地方の物件に関しては、今後、少子高齢化の影響で日本の人口が減少の一途を辿っていくことも十分に考慮する必要があるだろう。

 

一方で東京都の人口は一貫して増加しており、当面その傾向に大きな変化はなさそうだ。不動産投資は長期的なスパンで取り組むものである。今後は「将来的にも安定した需要が見込まれるエリア」という条件は絶対に外せなくなるだろう。

サブリースというスキーム自体に問題はないが…

不動産物件運営の際に、「サブリースにしておけば空室リスクを回避できる」と提案されることも多いが、契約に関してオーナーと業者が揉めるケースが後を絶たないのはいったいなぜか。

 

 

サブリースとは、業者がオーナーから一括で借り上げた物件を入居者に転貸することを意味する。空室が発生しても満室時の賃料収入の80〜90%が手元に入ってくるというのが一般的な事例で、オーナーにとってのメリットだ。

 

また、入退去に関する手続きや家賃の集金なども業者に一任でき、サブリースというスキーム自体に問題があるわけではない。気をつけたいのは、「最高30年」などと謳う長期間保証に関する誤解だ。

 

「前回もお話ししましたが、一見、長期間の家賃保証のように思われても、実は数年単位で契約が更新されたり、業者側から一方的に契約を解除できたりするのが実情です。本来、これらは契約書をきっちり読み込み、内容を理解していれば避けることのできるトラブルです」(蜂谷氏)

 

 

相続税を節税できても物件が不良資産と化せば本末転倒

2015年に相続税法が改正されたことも不動産投資ブームに火が点いた一因だが、実はここにも落とし穴が潜んでいる。相続税の課税対象者が大幅に拡大したのを踏まえて、住宅メーカーなどがその節税を目的に賃貸経営を提案する動きが目立ったが、「円満相続」を見据えたプランニングになっていないケースも多い。

 

 

「よく見受けられたのが賃貸併用住宅を建てるという提案で、①家賃収入を住宅ローンの返済に充てられる、②賃貸部分の建物・土地の相続税評価額を下げられる、というメリットがあるのは事実でした。しかしながら、安定的な賃貸需要が見込めない場所であれば、当初の計画に狂いが生じることになります。さらに、相続人が複数でその賃貸併用住宅以外にめぼしい資産がない場合、どう分けるかを巡って、いわゆる『争族』を引き起こす恐れも出てきます。しかし、マンションやアパートを建てるまでが本業の住宅メーカーなどは、その後の賃貸経営や相続対策まではフォローしてくれません」(蜂谷氏)

 

郊外の地主に対し、「遊休地に賃貸アパートを建てれば相続税を節税できます」とアプローチする営業も盛んだったが、こちらも然りである。

 

安定的にキャッシュフロー(家賃収入)をもたらす物件でなければ、目先の税金を抑えられても本末転倒なのだ。

 

 

取材・文/大西洋平 撮影(人物)/永井浩
※本インタビューは、2019年4月23日に収録したものです。