消費者のニーズが多様化し、モノが売れない時代。その中で、有力ライバル企業がしのぎを削るいわゆる「レッドオーシャン」市場に新たに参入し、幅広く支持を集める商品・サービスを生みだすことは容易ではありません。しかし、やり方や見方を変え、ビジネスの本質を見極めれば、今までになかったヒット商品を生むチャンスは充分あります。本連載では、飽和状態のハミガキ粉市場で、「超高価格の子ども用ハミガキ粉」を大ヒットに導いた筆者が、自らの経験を基に、「レッドオーシャン」で勝つためのビジネス戦略について解説します。

高度に開拓された現代に「ブルーオーシャン」はない⁉

今の社会は、「モノがあふれている」と言われて久しくなります。品質が優れ、価格も手ごろな商品が、いくらでも手に入る時代だと思われています。そんな中で、「自分たちの目指す市場もすでに飽和しているのではないか」「起業は難しいのではないか」と迷っているビジネスパーソンたちも多くいるかもしれません。

 

ライフスタイルや価値観が多様化し、ビジネス環境もめまぐるしく変化する中で、事業をどのように展開していくかは、現代の企業人にとって共通の課題です。中には、ビジネススタイルの転換や、新しい市場の開拓を迫られている人も多いのではないかと思います。

 

では、どのような価値観で、どんな商品・サービスを提供していけば、これからの世の中に受け入れてもらえるのでしょうか。そこで、一つの問いを投げかけてみたいと思います。先行企業がひしめいている分野では、本当に成功が望みにくいのでしょうか?

 

マーケティングの世界では、「レッドオーシャン」「ブルーオーシャン」という概念が広く知られています。

 

レッドオーシャン(赤い海)とは、文字どおり血で血を洗うような激しい競争が繰り広げられているマーケットのことです。一方、ブルーオーシャン(青い海)は、まだ競合相手のいない未開拓市場のことで、そういうマーケットを先に切り開けた企業は有利だとされています。

 

多くのライバルがひしめくレッドオーシャンに斬り込むより、どこにもない独自の商品でブルーオーシャンに漕ぎ出すべきだと考えるのが「ブルーオーシャン戦略」です。しかし、高度に開拓された現代の市場で、一体どこにブルーオーシャンが隠れているでしょう。

 

最近の企業コンサルティングの世界では、どこにあるかわからないブルーオーシャンを夢見るより、自分たちの既存の強みを活かす「ホワイトオーシャン戦略」が現実的だという声も有力です。

 

それでは、経営資源の限られた企業やベンチャー企業には、どんな経営行動が向いているのでしょう。ブルーオーシャンはイメージしにくく、ホワイトオーシャンも持たない場合、レッドオーシャンに新規参入することは、無謀なのでしょうか?

 

さて、この連載の主人公は、3年前に新発売された「子ども用ハミガキ粉」です。ハミガキ粉市場は、典型的なレッドオーシャンとみなされる市場です。誰もが、昔からこの飽和している市場に入っていっても、大手の宣伝力や価格競争に勝つことは難しいと思われるはずです。

 

その中で、あえて私は起業し、新しい子ども用ハミガキ粉を開発して発売しました。挑戦の結果、私たちの開発した商品は、レッドオーシャンであるハミガキ粉市場において、高額な商品にもかかわらず、本文で述べるような驚異的な売れ行きを見せ続けてくれています。

大手企業が居並ぶ「レッドオーシャン」に参入

私は歯科医師ですが、35年以上診療をし、多くの歯科技術のみならず、医院の経営者としてビジネスも研究し、研鑽してきました。その動機は決して経済的成功のみにあったわけではありませんが、幸い、歯科業界では上位5%に入る業績や70%を超える自費診療率を常に維持しています。

 

言ってみれば歯科業界もかなりのレッドオーシャンの1つですが、おかげさまで開業以来、増収増益が続き、治療を望む方々にはすみませんが、なかなか予約の取れない歯科医院として経営させていただいています。

 

その理由を今改めて考えてみると、いつも仕事を通じた社会貢献を第一義に、既存の価値観にとらわれず、多くの常識を覆す考え方や経営をしてきた点にもあるのではないかと感じています。

 

そんな私が長年考えていた「子どもたちにぜひ使ってほしい理想のハミガキ粉」を作ったところ、1カ月分が約8000円もする商品が出来上がりました。従来ある数百円のハミガキ粉に比べて、高すぎると思う人が多いと思います。それは、私自身にもわかっていました。ですが、自分の考える「本物」の子ども用ハミガキ粉を作ろうとしたら、どうしてもこの値段になってしまったのです。

 

そして大病をして60歳を過ぎた私にとって、自分の会社を立ち上げ、新しい高価なハミガキ粉を世に問うことは大きな賭けでした。しかも、ハミガキ粉市場こそ、日本を代表する大手企業が居並ぶレッドオーシャン中のレッドオーシャンと言える市場で、大きな困難が予想できたからです。

 

そんな市場でまさか成功できるとは、普通は考えにくいだろうと思います。実は新しい商品が受け入れられるか、私自身も本当に不安だらけでした。しかし、ふたを開けてみれば、私たちのハミガキ粉は期待以上の大ヒットとなり、人気が人気を呼んで、さらに買ってくださる方が増え続けています。

 

発売以来たった3年で1200万包も売れ、購入してくださったお客様のリピート率を見ると、なんと9割を超えているのです。驚きとともに、やはり世の中には、「本当によいものはよい!」と共感してくれる人がたくさんいたのだと、うれしく思っています。

新しい子ども用ハミガキ粉を開発した「大きな動機」

それにしても、典型的なレッドオーシャンであるハミガキ粉市場において、まったく無名の会社の非常に高額でまったく新しいタイプの子ども用ハミガキ粉が、なぜ爆発的に売れたのでしょうか。

 

理由はさまざまあると思いますが、あえて私見を言わせてもらえれば、レッドオーシャンに見えるハミガキ粉市場にも、これまで「本当に子どものために作られたハミガキ粉」がなかったからだと思います。

 

従来の子ども用ハミガキ粉は、基本的に大人が使うハミガキ粉と同じ発想で作られていました。しかし、子どもには子ども特有のニーズがあります。ハミガキ粉が口の中で泡立ち、スースーしたらイヤですし、薬のような味やにおいがする(化学成分でできていて)飲み込めないハミガキ剤を、そもそも口に入れたくもないはずです。

 

そんなハミガキ粉が、毎日の歯みがきタイムを、子どもにも親にも「つらい時間」「ストレスの時間」にしてしまっていたなら残念なことです。私は歯科医師として、子どもたちみんなに歯みがきが好きになってほしい、安心・安全なハミガキ剤を使ってほしいと心から願っていました。それが、新しい子ども用ハミガキ粉を開発した大きな動機です。

 

そして幸い、レッドオーシャンの中でも、しっかりした足がかりを築くことができたわけです。実は、多くの人からレッドオーシャンと思われている市場の中に、やり方や見方を変えれば、思いがけない大きなブルーオーシャンが隠れているのではと思っています。

 

いや、レッドオーシャンの中にこそ本物のブルーオーシャンがあると思っています。

 

本連載では、このハミガキ粉の商品化に至る道のりや商品のマーケティングなどを紹介しながら、なぜレッドオーシャンに斬り込めたのか、「経営者」としての私の考えを述べていきたいと思います。

 

それが広い意味で「レッドオーシャンで勝つ戦略」と言えるかどうかまではわかりません。しかし、皆さんが今後のビジネスのあり方や、お客様に愛される商品・サービス作り、さらには仕事を通じた社会貢献などを考えるうえで、少しでも参考になれば幸いです。

 

 

齊藤 欽也

歯科医師/ウィステリア製薬株式会社代表

 

レッドオーシャン革命 常識破りのマーケティング戦略

レッドオーシャン革命 常識破りのマーケティング戦略

齊藤 欽也

幻冬舎

定価7800円の子ども用ハミガキ粉がなぜ売れているのか? 創業わずか3年。競争の激しいオーラルケア市場で急成長を遂げたベンチャー企業の軌跡から読み解く「ビジネスの新常識」 現代社会は、品質が優れ価格も手ごろな商品…

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