トランプ政権による国際課税方式の改正(全世界所得課税から源泉地国課税への移行)により、米国外子会社における多額の留保利益が米国内へ還流した結果、今年は自社株買いが活発となっています。例年よりも自社株買い余力は高いため、7-9月期決算発表前に中断された自社株買いが再開されれば、米国株式市場の支援材料になることが期待されます。
米国外に滞留したキャッシュの一部が、国際課税方式の改正により米国内へ還流した結果、自社株買いが大幅に増加
昨年12月に議会を通過した税制改革法案(Tax Cuts and Jobs Act)にトランプ大統領が署名したことを受け、米国の国際課税方式が今年から改正(全世界所得課税から源泉地国課税へ移行)されました。この改正を受け、これまで米国外から米国内へ資金を還流させる際に課せられた連邦法人税(35%)が非課税となり、その代わりに米国外留保利益に対して一回限りの課税が行われました(流動資産15.5%、非流動資産8%)。
米国連邦準備制度の調査によれば、米国多国籍企業は2017年末時点で約1兆ドルの現金・現金同等物を保有していたと推測され、そこから2018年1-3月期は2,949億ドル、同年4-6月期は1,695億ドルの資金が米国外から米国内へ還流しました。これは、ブッシュ大統領(当時)のレパトリ減税時のピーク(2005年10-12月期)である1,258億ドルを大きく上回る規模です。この結果、米国S&P500企業の自社株買いが2018年1-3月期は1,754億ドル(前年同期比+39%)、同年4-6月期は1,866億ドル(同+56%)と大幅に増加しました。
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[図表1]米国国際収支 直接投資利益 配当金等
[図表2]米国S&P500企業の資本配分推移
一般的に、自社株買いは1株当たり利益の増加や流通株式の需給改善につながるため、自社株買いの再開は株式市場の支援材料に
自社株買いによって企業の発行済み株式数は減少するため、純利益が一定であれば、一株当たり利益(EPS)はその分増加します。また、自社株買いは流通市場で買付けを行うことが多いため、流通株式が減少することによって、需給改善にもつながる傾向があります。
今年10月の相場急落局面は、米国長期金利の上昇やVIX上昇に伴うプログラム売り、米中貿易摩擦懸念や追加関税による業績への悪影響等が要因として挙げられますが、実は7-9期決算発表を前に米国企業が自社株買いを中断したことによる、一時的な株式需給の悪化も、株価急落の背景として考えられます。
このため、7-9月期決算が今後順次発表されれば、米国企業の自社株買いも再開することが想定されるため、自社株買いの再開は今後の米国株式市場の支援材料として注目されます。
(2018年11月7日)
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