前回は、「IoT」活用に出遅れる日本企業の現状を説明しました。今回は、日本企業がIoTを活用できない「5つのパターン」を紹介します。

知識はあっても「行動に移す方法」が分からない!?

レベルの差はあるが、IoTを活用できていない症状のパターンを分析すると、以下の図表のように層別できる。

 

[図表]IoT活用に悩むパターン

 

以下に、具体的に、どんな症状でどんな対策方向があるかを述べてみよう。

 

<タイプ① 概念論中心型が陥る進捗停滞>

 

トップから、「うちもIoTを使って改革を!」とか、「IoTを導入して改革を進めよ!」といった指示が出て、担当者が勉強をしつつ、「うちのどこにどう活用すればいいのか?・・・というより、IoTってそもそも、どういうことなのか?」というような悩みを関係者が集まって議論している状況を指している。

 

IoTは、包括的概念を表す用語であり、「モノに通信機能を付与して、インターネットにつなぐ技術」を指している。つないで、その後はどうするのか? IoTはそれについては、何も答えてくれない。

 

そのような状況で、勉強をしている人がいても、きちんと耳を傾けたり、聞いたことを自分なりにも確認してみようとする、そういう姿勢や行動を取れる仲間がいないため、結果的にみんなが立ち止まっている状況。

 

しかし、立ち止まってはいても、逃げようとしているわけではないので、基礎から教えれば、十分前進できる。タイプ①にはそんなメンバーが多いように感じる。

 

<タイプ② IoTメリット理解不足型が陥る進捗停滞>

 

このタイプの悩みを持つ企業では、一応、IoT概念も正しく知り、道具立ても知っている。

 

ところが、IoTデバイスと取り付ける『モノ』のことは理解できるが、インターネットにつないで、どうするのか? どんなメリットを創出できるか? それが見えていない。事例は、いろいろ見聞きしているが、自分たちに使えるかどうか? ということになると、腹に落ちない。

 

このタイプの企業では、IoTを極めて局所的にしか見ていない傾向がある。事例を知っても、「うちで使って、大きな効果って出るだろうか?」という議論になり、前に進まない。

 

IoTは、局所的にも用いることができるし、大きなビジネスフレームワークの中に位置付けた活用もできる。言い換えれば、IoT活用は、現場活用から、ビジネスの枠組み改革のレベル、さらには社会システムの変革まで活用の範囲を広げることができる。活用は、階層的に考えることができるのである。

 

但し、それを理解しても、適用のためには、自分たちのビジネス構造を階層的に捉えることができなければならない。それによって、どの階層には、どんな活用の仕方があるのか? を具体的に考えることができるようになるのである。

 

<タイプ③ 活用視点不足型が陥る進捗停滞>

 

IoT概念も、IoT活用の可能性も、一般知識的には理解している。だが、自分たちのビジネスへの活用の具体的アイデアがなかなか浮かばなくて、苦労している。それがタイプ③の症状である。活用の「場面」「プロセス」を想定できないのである。

 

なぜか? IoT適用のアイデア検討のための、基本的視点が理解できていないからである。

 

理解が必要なのは、『プロセス』という視点である。IoTは、プロセスの中に埋め込むことにより、機能を発揮する。タイプ③の悩みを分析すると、IoTを非常に「静的」概念で捉えていることが分かる。「IoT=モノのインターネット」という概念なのである。

 

この定義から、「プロセス」という時間によって変化していくイメージは、捉えにくい。冒頭で述べた「IoTの定義」は、こういう悩みにこそ役に立つ。

 

IoTは、何かの「状態」を外部発信する道具なのである。プロセスは、時間経過とともに何かが変化する。位置変化、温度変化、重要変化等々である。生産のプロセスなら『変化状況』のデータを発信できる。輸送なら、『位置変化』の状況を、『輸送貨物』なら『位置』や『受ける振動』の状況を把握できる。IoTは状況把握のツールである。

 

ならば、「自分たちのビジネスで、把握したい状況とは何か?」「見える化したい状況とは何か?」と考えれば、見えてくるものがある。

 

ただし、行き当たりばったりで考えるのは、効率的でも効果的でもない。『状況』『プロセス』の種類や大きさ、さらには、『ビジネスとプロセスの関係』が整理されていなければ、系統的なアイデア検討はできない。

手段の先にある「目的」の設定に悩むケースも

<タイプ④ 手段先行型が陥る進捗停滞>

 

「習うより慣れろ」「まずはやってみる」タイプの企業に多い取り組みである。このタイプの企業では、必ずしも重苦しい悩みの雰囲気ではない。むしろ、『明るく悩んでいる』印象が強い。

 

「いろいろ試しているんです。いいことはいいけど、もうひとつしっくりこないんですよね」

 

「しっくりこない」の中身を聴くと、結局は「ビジネスインパクト」「投資対効果」の話。IoTの中身も、「うれしさ」も一通り分かっているが、自社ビジネスのどこに適用するとよいのか? その目的設定ができない状況である。

 

手段の理解は十分だが、手段の先にある『目的』の設定に悩む。それがこのタイプである。

 

このタイプは、手段を結構いろいろ知っていて、トライアルしているケースが多いので、その長所を活用するとよい。具体的には、手段の目的の分析と体系を体験させることにより、目的設定の感覚が分かってくる。VE(バリューエンジニアリング)には、問題反転VEという手法があるが、この発想と同様である。

 

<タイプ⑤ 類似例追随型が陥る進捗停滞>

 

トップがIoT活用企業の事例を見学してきたようなケースに多い。『あそこと同じものをうちでも』というわけである。

 

意図を間違っていることは少ないが、IoT活用の現象面(例タブレット端末を参照しながら作業)だけをみて、その裏にある仕組みや、仕組みを整備し、運用設計するための作業、考え方、苦労点を知らないまま、(IoT導入という)結果を求めている形になってしまう。

 

部下は、素直に従って、(悪気はないが、真面目に)結果を求めるあまり、形式だけ導入して、実際に運用すると、オリジナルの企業ほどうまくいかない。「そんなはずはない」と、悩んでしまう。

 

どんな仕組みにも、それを考えだした企業には、発端となった問題があり、その問題発生の状況がある。

 

また、解決にあたっての考え方もある。なぜ、IoTだったのか? なぜ、タブレットなのか? スマホでダメなのか? 等の議論は、現象だけみただけでは分からない。

 

例えば、作業結果をダイレクト入力して、再入力の手間は削減できた。だが、「確かに効果はあったが、当社の場合、効果の大きさはそれほどでもない。本当に、模範とした企業は、大きな成果が出ているのだろうか?」等である。

 

素直に、オリジナル企業に教えを求める場合もある。しかし、分かったつもりで、自社に帰って検討を始めても、また壁にぶつかる。それは、オリジナル企業と自社企業の状況の差を把握していないことに原因があることが多い。

 

教えを請う場合も、IoTに絞っての質問で、模範企業の問題状況の深堀をしないケースが殆どだからである。当然、自社についても、状況の深堀はできていない。結果を(現象レベルで)求めるあまり、他事例の表面的なモノマネに陥り、自社にマッチした形にできず、前に進まない。

 

このようなケースも、自社のプロセスや、問題内容・原因の深堀を踏まえて考えると道がみえてくる。

 

以上、IoT活用の悩みを5つのタイプに分けて述べた。タイプ①だけは、基礎知識・概念整理のレベルであるが、タイプ②〜タイプ⑤は、いずれも、自分たちのビジネスの実態分析や本質理解がなされていないことの原因が大きい。

本連載は、2018年7月3日刊行の書籍『IoT時代のバリューチェーン革命』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界の富裕層に学ぶ海外投資の教科書

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長谷川 建一

扶桑社

シティバンクグループのニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任し、日本に「プライベートバンク」を広めた第一人者である著者。現在は香港に自ら設立した『Wells Global Asset Management Limited』の最高経営責任者と…

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