仮想通貨、フィンテック・・・テクノロジーの進展とともに「金融」の世界も激動している。本連載では、金融とは本来、実体経済の効率化と活性化を図り、豊かな社会を実現するためのインフラであるということを前提に、証券化やデリバティブなどの金融スキームに詳しい一橋大学大学院の大橋和彦教授、金融インフラの根幹である決済機能の実務と理論に精通する帝京大学の宿輪純一教授をお招きし、Tranzax株式会社の小倉隆志社長とともに、新しい時代に「金融」が担う役割と意義について語っていただく。第5回目のテーマは、中小企業の資金調達において日本の「金融」が抱える課題と解決策についてである。

なぜ中小企業は運転資金の確保に苦しみ続けるのか?

小倉 日本の場合、ベンチャー支援という点では公的制度のほうが充実しています。きちんとした事業計画書とある程度の自己資金があれば、東京都から2000万円、日本政策金融公庫から1000万円、合計3000万円程度は無担保で借りられます。業種にもよりますが、創業はさほど難しくありません。

 

問題は、創業した後です。事業が黒字にならないと、決算書で審査する金融機関は融資をしてくれません。先ほど述べたように、日本のVCも金融機関と同じような審査を行うので、リスクマネーの出し手とはいえません。その結果、日本のベンチャーや中小企業は運転資金の確保に四苦八苦することになっています。

 

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科
教授 大橋和彦 氏
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授 大橋和彦 氏

大橋 金融の重要な機能がリスクの配分であり、その中にはベンチャーや中小企業に対するリスクマネーの供給も含まれます。ただ、リスクマネーの供給は当然、リターンの見込みに左右されるので、日本では「ニワトリが先か、卵が先か」という議論になりがちです。

 

宿輪 アメリカの場合、リスクマネーの出し手だけでなく、インキュベーターと呼ばれるハード・ソフトのリソースが揃っているのが強みです。日本ではそうしたリソースがまだまだ弱い。

 

サプライチェーン・ファイナンスとPOファイナンス

Tranzax株式会社 代表取締役社長 小倉隆志 氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志 氏

小倉 リスクマネーの出し手がいればそれに越したことはありませんが、ベンチャーや中小企業の資金調達には他のやり方もあります。当社では、売掛債権があれば電子記録債権を使って支払期日の前に現金化する「サプライチェーン・ファイナンス(※1)」という仕組みを考案しました。

 

また、納品・検収によって売掛債権が発生するさらに前、受注段階で一定額をキャッシュ化できる「PO(Purchase Order)ファイナンス(※2)」の仕組みも構築しています。ベンチャーや中小企業の資金調達において、投資(エクイティ)、融資(デット)に並ぶ第三の資金調達の選択肢だと自負しています。

 

さらに最近では、電子記録債権を活用した新しいサービスとして、上場株式の売却代金の即日ファクタリングを開発しました。通常、上場株式を売却した代金を受け取れるのは3営業日後です。そこで、証券会社への代金請求権を電子記録債権化することで、売却当日の現金化を可能にしたものです。ワラントの権利行使などでも利用可能です。

 

※1 サプライチェーン・ファイナンス
プライマリメーカー(発注企業・親会社)との契約のもと、サプライヤー(納入企業・下請会社)が持っている売掛債権を電子記録債権化し、SPC(特別目的会社)へ譲渡することにより、支払期日前に資金化するTranzaxの金融サービス。サプライヤーにとっては、プライマリーメーカーの信用力をもとに資金化できるため、自社の信用力にかかわらず、金利面で有利な条件で運転資金を調達できる可能性がある。プライマリーメーカーにとっては、サプライチェーン全体の金融コスト(金利負担、金融機関利用手数料)を下げ、サプライヤーとの関係強化がはかれる。

 

※2 POファイナンス
電子記録債権を活用することで、従来は困難だった受注時点からの担保融資を可能とするTranzaxの金融サービス。サプライヤーにとっては、一番運転資金が必要な受注時(生産開始前)に資金調達ができ、プライマリーメーカーにとってはサプライチェーン全体の関係緊密化がはかれる。

取材・文/古井一匡 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2018年1月29日に収録したものです。

企業のためのフィンテック入門

企業のためのフィンテック入門

小倉 隆志

幻冬舎メディアコンサルティング

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