世界的な金融のトレンド「金融包摂」と「日本型金融排除」

仮想通貨、フィンテック・・・テクノロジーの進展とともに「金融」の世界も激動している。本連載では、金融とは本来、実体経済の効率化と活性化を図り、豊かな社会を実現するためのインフラであるということを前提に、証券化やデリバティブなどの金融スキームに詳しい一橋大学大学院の大橋和彦教授、金融インフラの根幹である決済機能の実務と理論に精通する帝京大学の宿輪純一教授をお招きし、Tranzax株式会社の小倉隆志社長とともに、新しい時代に「金融」が担う役割と意義について語っていただく。第4回目のテーマは、世界的な金融のトレンド「金融包摂」と「日本型金融排除」についてである。

金融サービスを低コストで提供する「金融包摂」

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科
教授 大橋和彦 氏
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授 大橋和彦 氏

大橋 いま、世界的な金融の大きなトレンドとしては、速度よりも広がりが重要になっていると思います。典型がいわゆる「金融包摂(financial inclusion)」です。金融包摂とは、新興国の貧困層に、振り込みや融資など各種金融サービスにアクセスできる機会を提供し、貧困の解消を目指す動きです。

 

世界規模で見ると、基本的な金融サービスを利用できない成人がおよそ25億人いるとの推計があります。フィンテックを活用した金融サービスのイノベーションが最も活発化している分野です。

 

小倉 銀行制度が未整備の新興国で、携帯電話とインターネット技術を使って金融サービスを一気に普及させるというのは、フィンテックならではですね。

 

宿輪 歴史的に金融サービスは、金融機関のネットワークが張り巡らされることで多くの人が享受できるようになります。金融機関の支店、そこにいるスタッフ、そして情報通信網が不可欠です。それに対して現代の「金融包摂」では、建物や人員などは必ずしも必要ではなく、低コストでサービス提供できることが最大のポイントです。

 

小倉 ただ、日本の金融システムにもまだまだ遅れた部分があります。金融庁では、中小企業に対して銀行等の金融仲介の取組みが不十分ではないかとして、「日本型金融排除」の可能性を指摘しています。

 

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中小企業の資金繰りを苦しめ続ける「日本型金融排除」

Tranzax株式会社 代表取締役社長 小倉隆志 氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志 氏

小倉 

そもそも日本では中小企業の6割は赤字決算で、決算書重視の銀行からは借入れが基本的にできません。また、中小企業は売掛債権のファクタリングや手形割引において、不利な取引条件を金融機関から求められています。

 

大手上場企業がコマーシャルペーパーを発行すると現在、金利は0.01%程度でしょう。しかし、同じ会社に対する売掛債権を持つ中小企業が、一括ファクタリングにより現金化すると短期プライムレート程度の手数料を取られます。大手上場企業と中小企業には大きな金利差が生じているのです。

 

大橋 金利や手数料が高止まりしているということは、金融市場におけるアービトラージ(鞘取り)が働いていないからです。十分な競争がおこなわれていないからではないでしょうか。

 

小倉 その通りで、市場金利であるTIBOR(東京銀行間取引金利)と各銀行が融資の基準として設定している短期プライムレートとの格差は以前にくらべてむしろ拡大しています。当社の電子記録債権を活用した金融サービスは、日本でまだ残っていたそうした課題を解決しようとするものです。

 

帝京大学 経済学部
教授 宿輪純一 氏
帝京大学 経済学部 教授 宿輪純一 氏

宿輪 

日本の金融市場の構造として、銀行に資金が集まり過ぎているといえます。それは銀行にとってもリスクであり、金融庁は銀行に対して取引先企業の事業内容や成長性を評価して融資を増やすよう求めています。いわゆる「事業性融資」です。

 

しかし、取引先企業の事業内容や成長性を評価するのはそう簡単なことではありません。多くの銀行の現場ではいまなお、本部が作成した取引先企業の格付けに応じて融資などの判断をしています。

 

金融庁も以前は、「貸し倒れをゼロにするように」と指導していました。融資をすれば一定の確率で不良債権が発生するのは当たり前ではあるのですが。

 

小倉 日本の金融機関のそういう体質はなかなか変わりません。そうであれば、特に中小企業に資金が流れる別の仕組みを用意すべきだと思います。

 

大橋 事業性評価による融資というのは本来、ベンチャーキャピタル(VC)などによるプライベートエクイティが担うべきものではないでしょうか。

 

小倉 アメリカでは確かにそうです。VCからベンチャーに資金が入り、ベンチャーの成長によってリターンを得るという仕組み(エコシステム)ができあがっています。

 

しかし、日本のVCの出資審査は、銀行の融資審査とほとんど変わりありません。利益や売上見通しにこだわり、赤字会社への出資に及び腰で、しかも各社横並びです。
それもまた、日本型金融排除の一例といえるでしょう。

 

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取材・文/古井一匡 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2018年1月29日に収録したものです。

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連載中小企業の未来を変えるイノベーション~新しい時代に「金融」が担う役割とは?

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授

1963年生まれ。1986年一橋大学経済学部卒業。1986年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了、経済学修士取得。1993年MITスローン経営大学院博士課程修了、経営学(ファイナンス)Ph.D.取得。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科(金融戦略部門)教授、日本ファイナンス学会会長(2008年~2010年)。

著者紹介

帝京大学 経済学部経済学科 教授

博士(経済学)。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。4月より現職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、4月で11周年、開催は220回を超え、会員は1万2千人を超えた。プロの映画評論家としても活躍中。著作は『通貨経済入門(第2版)』(日本経済新聞社)、『決済インフラ入門』(東洋経済新報社)などはじめ他多数。

著者紹介

Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

著者紹介

企業のためのフィンテック入門

企業のためのフィンテック入門

小倉 隆志

幻冬舎メディアコンサルティング

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