前回は、電子記録債権と指名債権の違いについて解説しました。今回は、電子記録債権に関する注意点を見ていきます。

手形の発行手続きが不要な「一括ファクタリング」

●一括ファクタリングとの違い

 

債権の種類とは違いますが、売掛債権を使った資金調達手段として、手形割引に代わって広く利用されているのが一括ファクタリングです。

 

これは、金融機関の子会社などのファクタリング会社が、売掛債権の債務者(発注元)および債権者(下請け)との間であらかじめ契約を交わし、債権者の売掛債権を満期日前にまとめて買い取るというものです。

 

手形の発行手続きが不要なので手間やコストがかからず、手形の利用が減少した分の主な原因はこの一括ファクタリングに切り替わったためだといわれます。

 

ただし、一括ファクタリングでは、売掛債権の回収はファクタリング会社が行うことになり、債務者(発注元)の倒産リスクなどもファクタリング会社が負います。

 

そのため、一括ファクタリングは、信用リスクが極めて小さい大企業が発注企業の場合にしか導入されていません。大企業のメインバンクはメガバンクであることが多いので、このマーケットはほぼメガバンクの独占市場です。

 

スキーム上、二重譲渡のリスクがまったくないわけではないのですが、このリスクは通常、発注企業に転嫁されているケースが多いようです。また、中小企業間の取引には利用できないのが欠点です。

電子記録債権は利用目的に応じ記録機関を使い分ける

電子記録債権ももちろん万能ではなく限界があります。

 

ひとつは「将来債権」の扱いです。将来債権とは文字どおり、将来発生する債権のことです。例えば、医療機関では日々の診療で公的医療保険(国や組合)に対する診療報酬債権が発生します。医療機関はこの診療報酬債権について、将来の一定期間に発生するものをまとめてあらかじめ第三者に譲渡することで資金を調達できます。

 

しかし、電子記録債権の現在の規定では、記録するときに債権額や支払期日が確定していることが必要です。そもそも電子記録債権は「記録によって発生する」ので、未発生の将来債権の譲渡などには使いにくいのです。

 

将来債権の譲渡については、「動産・債権譲渡特例法」のほうが合理的ですし、すでに広く利用されています。

 

債権のなかでも将来債権の譲渡にあたっては動産・債権譲渡特例法による債権譲渡記録を利用するのがよいでしょう。一方、金額が確定している既発生の債権には電子記録債権を利用するほうが適しています。

 

もうひとつ、限界というより注意しなければならないのは、電子記録債権の利用にあたっては、まず特定の電子債権記録機関に利用者登録をする必要があるということです。電子記録債権の債権者、債務者はもちろん、譲受人もその記録機関に登録しなければ債権を譲り受けることはできません。

 

これは他の債権とは大きく異なる点です。株式(上場株)はどの証券会社でも売れますし、手形はどの金融機関でも基本的に割引が可能です。しかし、電子記録債権では同じようなことはできません。これは制度上、発生記録をした記録機関でなければ、譲渡記録ができないことによるものです。現時点では、電子債権記録機関の間での電子記録債権の移動はできないのですが、実務的な検討は進められているので、将来的には可能になるかもしれません。

 

複数の記録機関が存在し、それぞれ互換性がないということから、利用目的に応じて記録機関を使い分ける必要があるともいえるでしょう。

※注

電子記録債権法の改正により、2017年から電子債権記録機関の間の移動は法律的には可能になりましたが、2017年8月現在、異なる電子債権記録機関への移動を取り扱っている記録機関はありません。

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