金属加工業界の「支払い慣習」にまつわる課題とは? 発注品を製作する菊川工業株式会社の白井工場

下請取引に関する2016年末のルール改正に伴い、下請事業者への支払いサイト短縮が強く求められている親事業者。そんな中、世界で名を馳せる金属加工メーカー菊川工業株式会社が、支払いサイトの大幅な短縮を可能とする仕組み「サプライチェーン・ファイナンス」を導入した。その狙いは何か? 本連載では詳しく探っていく。 第3回目は、金属加工業界独特の支払い慣習について宇津野嘉彦社長に伺った。聞き手は、電子記録債権を利用した決済プラットフォーム事業を展開し、サプライチェーン・ファイナンスを取り扱うTranzax株式会社の小倉隆志社長である。

納期間近になって「注文書」が送られてくる!?

――金属加工品がフルオーダーメイドで、2、3年と納期が長く、粗利率も高くないとなると、資金繰りが大変そうです。金属加工業界ではどれほどの支払いスパンが一般的なのでしょうか?

 

菊川工業株式会社 代表取締役社長
宇津野嘉彦 氏
菊川工業株式会社 代表取締役社長
宇津野嘉彦 氏

宇津野 納品のあったその月に締めて、翌月払いというのが一般的です。金額が大きければ、その何割かは120日サイトの手形で支払われるケースも多い。ただ、先ほどもお話したように、納期までにはかなりの時間があります。おまけに、モックアップを作っても受注できなければ、そのコストは無駄になってしまいます。

 

さらに特徴的なのは、見積もりを出して値段を決めて受注するという製造業では一般的なプロセスを省略して仕事が始まる点でしょう。ゼネコンさんや設計事務所さんに営業して仕事を頂けても、その段階では詳細な設計は決まっていませんし、どれだけのコストがかかるのかもわかりません。そのため、納期間近になって注文書が送られてくるケースは少なくありません。

 

小倉 それは完全に下請法違反になりますね……。

 

宇津野 おっしゃるとおりですが、下請法は経産省の管轄で、建設業の監督官庁は旧建設省にあたる国土交通省になるので、建設業法等が優先される傾向にあるようです。一方で、当社はメーカーなので下請業者への支払い遅延等がないか指導を受けやすい。

 

実は、当社の協力会社である金属加工会社さんなども、図面と工程表をお渡しすると、何も言わずに仕事をしてくれるんです。作ってみないことにはいくらかかるかわからないからです。そのため、納品後に見積書と請求書が一緒に送られてくるケースも少なくありませんでした。お恥ずかしい話、それが常態化していた時期には支払遅延防止法の監査に引っかかって指導を受けたこともありました。

 

当然、私は「事前に金額等の取り決めをしろ」と発注担当者たちに言いましたが、それでも定着しない。協力会社さんにとっても、事前に金額を決められることはリスクなんです。実際に造ってみて、かかったコストに利益を上乗せして見積書と請求書を出すほうが安心なのです。

 

だから、製品が出来上がってから、値段交渉するなんてことは昔はありました。

 

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品質向上のために「会員企業」へはすべて現金払いに

Tranzax株式会社 代表取締役社長 
小倉隆志 氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長 小倉隆志 氏

小倉 なるほど、完全に下請代金の減額に当たるので、それも下請法では…。ただ、両者の利害が一致しているのが難しいところですね。

 

宇津野 おっしゃるとおりなのですが、ものすごい肝の座った親父さんもいるんですよ。当社の社員が「予算に合わない」と協力会社の社長に直談判しに行ったら、その社長が財布を出して「差し引いてほしい金額を直接あなたに手渡しますから、請求書どおり支払ってください」と言ったそうなんです。その手法は褒められたものではありませんが、私は感心して、それから本気で発注の仕組みを見直すことにしたんです。

 

4年ほど前に協力会社さんを集めて、「今後、請求書はいりません。見積書に基づいてうちが注文書を発行しますので、その条件を了承頂けたら請書を発行してください。納品時にはうちが検収通知書を発行して注文書どおりの金額をお支払します」と説明させてもらいました。

 

――協力会社はすんなりと受け入れたのですか?

 

宇津野 特に反対される方はいませんでした。ただ、しばらくは注文書の日付が締日と同じだったり、注文書と請求書と検収通知書の日付が一緒だったりするケースがありました(笑)。完全に発注段階で支払金額を決めることの難しさを感じましたね。そこで、協力会社さんにとってメリットのある仕組みを整えようと工夫しました。

 

菊川工業の製品は協力会社さんたちとの総合力のたまもの。協力関係を強化していくことで、さらなる品質向上を図ろうと考えたのです。2年前より協力会の会員企業へはすべて現金払いとする、としました。残るは協力会会員以外の約100社の支払い方法の検討でした。

 

小倉 支払いがすべて現金化されれば、下請事業者は喜ぶでしょう。でも、菊川工業さんの資金繰りが大変になるのではありませんか?

 

宇津野 その点は、むしろ支払手形を減らすメリットの方に注目しています。以前は常時50~60社に手形払いを行っていましたが、そのためにはプリンターで手形を発行して、判子を押して、印紙を貼って、担当者らで金額等の読み合わせをして……と、結構な手間がかかっていました。

 

手形帳や管理用の台帳は金庫に保管しなくてはなりませんし、振り出したあとに取引先から「期日が過ぎちゃったから再発行してくれ」とか「現金化してくれ」などと頼まれることもあります。そのようなコストや手間の削減効果は、資金繰りのコスト以上に大きかったと感じています。

 

菊川工業の製品づくりは協力会社との総合力のたまものである
宇津野社長が「協力会社との総合力のたまもの」と語る菊川工業の製品づくり

 

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取材・文/田茂井 治 撮影/永井 浩 
※本インタビューは、2017年10月16日に収録したものです。

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Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

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