クリニックの多くは小さな組織であり、その運営にあたってはドクターとスタッフが「一体」となることが不可欠です。本連載では、アンリミテッド株式会社の代表取締役で、医経統合実践会を主宰する医経統合コンサルタントの根本和馬氏が、クリニック開業を成功に導くための「頼りになるスタッフ」の育成術等を解説します。

クリニックを良くするために「スタッフ」を巻き込む

クリニックは、一般企業と比べてとても小さな組織のため、スタッフひとりひとりの仕事への考え方や取り組みによって、結果が大きく変わります。

 

ここで言う「結果」とは、

 

●増患(増収)

●離職率の低下

●良い人材の採用

 

を指します。

 

いくら院長先生が高い技術を持っていたとしても、症例が豊富で、海外の勉強会やセミナーにも積極的に参加するなど、自己研鑽を怠らない方であっても、クリニックにアプローチする患者さんが最初に接するのは受付(スタッフ)です。

 

初診の方が電話で、「初めてなんですが、●月●日は空いてますか?」と問い合わせたときに、スタッフが、

 

「その日はいっぱいです。待てるなら来てください。では」(ガチャン)

 

といった、ぞんざいな応対をしてしまったら・・・。果たしてその後、来院に繋がるでしょうか。

 

「チーム医療」という言葉がありますが、クリニック経営もチームがひとつになって、初めて結果が出るのです。

 

しかし現実問題として、医師として診察に当たるだけでなく、経営者の役割も担うクリニックの院長先生は、大変多忙です。エースピッチャー兼4番バッターであるだけでなく、監督であり、球団オーナーでもある、といったところでしょうか。

 

そんな多忙な院長先生に対してのみ、クリニックを改善するアドバイスをお話しても、結局は机上の空論になってしまいます。だからこそ弊社は、2005年から12年以上に渡って「ただ、院長先生にだけアドバイスを伝える」ではなく、「クリニックを良くするためにスタッフを巻き込む」というコンサルティングを実践してきました。

なぜこの医院理念を掲げるに至ったのか、明確に伝える

スタッフを巻き込んだクリニック経営のひとつの手法として、「医院理念を明確する」ことがあげられます。

 

医院理念とは、「院長先生が当院をどのような医院にしたいのかを示したもの」ですが、ここで言う「医院理念を明確にする」とは、単に理念を掲げるだけではなく、「スタッフに理念を浸透させ、それに沿った行動をさせる」ところまでを指します。逆に言えば、単に綺麗事として掲げているだけの理念や、スタッフに全く伝わっていない理念は、無いも同然であると考えます。

 

では、どのようにして医院理念を「浸透」させればいいのでしょうか。

 

それにはまず、院長先生がミーティングなどを通じ、「なぜこの医院理念を掲げるに至ったか」をスタッフに説明することです。

 

経営者の最大の役目は「伝えること」。伝えなければ、院長先生の考えはスタッフには伝わりませんし、伝わらなければ、先生が求める行動をスタッフがとれるわけがないのです。

 

勤務医のときは、スタッフに理念を伝える機会も、伝える必要もなかったかもしれませんが、開業すれば先生は経営者なのです。「経営者の最大の役目は伝えることである」と認識し、ご自身の「思い」をしっかり伝えるようにして下さい。

医院経営は船・・・船長は院長、行き先を示す「医院理念」

しかし、一度伝えただけで浸透するほど、話は単純ではありません。極端に言えば、先生がお話されるたびに、スタッフたちが「またその話か。先生は繰り返し同じ話をしているな・・・」と思うくらいで丁度良いのです。

 

 

スタッフがそこまで思うためには、朝礼での唱和や、上記写真の例のように、理念を書いた用紙の診療室への掲示、理念をちゃんと憶えているかどうかテストするといった取り組みも有効です。

 

医院経営は「船」にも例えられます。船長は院長、船員はスタッフで、その船が向かう先が「医院理念」です。医院理念が明確ではない、或いは、スタッフに伝わっていない状態は、行先が不透明のまま漕ぎ出そうとする船と同じです。当然そのようなクリニックは、結果が出ません。

 

人口減少や保険点数の減少、競合医院の増加など、クリニック経営も安穏としてられない状況です。ぜひこの機会に、医院理念をスタッフに伝えてください。

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