なぜ医師は「孤独死」をテーマに本を書いたのか

~著者インタビュー

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なぜ医師は「孤独死」をテーマに本を書いたのか

今回は、なぜ「孤独死」をテーマに本を執筆したのか、その理由を執筆者本人にインタビュー形式で探ります。※本連載では、毎回ひとつの事例をあげ、なぜ人々は本を出すのか、そして、本を出すことでどんなドラマが生まれるのかを探っていきます。

孤独死は本当に「人生で最大・最悪の不幸」なのか?

松田ゆたか氏は心療内科・産婦人科のドクターである。なぜ多忙な医業の傍らで何年も筆をとり続けてきたのか。最新著書『孤独死ガイド 一人で生きて死ぬまで』を執筆された経緯を聞いてみた。

 

――本作品は孤独死をテーマとした作品となっていますが、自身が孤独死について考えるようになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

 

「きっかけ」というほどクリアカットなものではないのですが、わたしが今の生き方を続けていれば、その果ては孤独死だとずいぶん前からごく自然に思っていたのです。わたしは仕事の時はともかくとして、プライベートな時間は一人で自分の思うように自由に生きています。

 

一人暮らしの自由を満喫しているのだから、死ぬ時も一人だと覚悟しておくべきでしょう。ずっと一人暮らしの自由を満喫しておいて、「最期は誰かに看取ってほしい」というのは虫が良すぎると思いませんか? それに、そもそもわたしは一人で死ぬこと、つまり「孤独死」は決して悪いことではないと思っているんです。

 

ただ、世間を見渡すと孤独死は徹底的に忌み嫌われてますね。人生で最大・最悪の不幸であるかのように語られることが実に多い。それが不思議なんです。世間の人たちは、孤独死というものをきちんと考える前にイメージだけで嫌い、恐れているんじゃないかと。

 

こんな思いがあるものだから、これまでも個人的に語り合える範囲では、「孤独死を誤解しないでね」「孤独死って、そんなに悪いものじゃないよ」と話をすることがあって、そうやってわたしがきちんと説明すれば、かなりの人が納得してくれたものです。

 

――その思いをより多くの人に伝えるために著書を世に問われたのだと思いますが、改めて、本作品をお書きになろうと思われた動機を教えていただけますか?

 

実は、その理由はわたしの仕事と密接に絡みます。医者は、人の死に立ち会う機会が多い。肉親や友人・知人の死ほどではないにしても、患者さんの死もやはり悲しいです。

 

そんな経験をする中で、いつの頃からか、「わたしが死ぬ時は、人を悲しませないようにしたい」そう思うようになったのです。人を悲しませない死に方ってどんな死に方だろう、と考えていくうちに、「誰にも知られずひっそりと死ねば、誰も悲しませないで済む」と思い至ったわけです。

 

 

――これまで語っていただいたような動機をもって、幅広い読者を想定して執筆に取りかかられたとのことですが、実際に執筆を進める中で、改めて気付いたこと、または新たに発見したことなどはありましたか?

 

細かなことまで数え上げればたくさんあるのですが、とりわけ印象的だったのは、死や葬儀に係わる本や資料をいろいろ読み込む中で出会った、一遍上人の遺言ですね。本作品にも引用していますが、

 

「(死骸は)野に捨て、獣にほどこすべし」

 

という、あの遺言です。わたしもシンプルライフの結末としての「シンプルデス」を主張しているのですが、これぞ究極のシンプルデスというか、人があらゆる虚飾を捨て去って自然の食物連鎖に還っていく、そんな死に方だと思いました。

死に方とは「生き方の決着」

それと、これは安楽死についての情報を得るために読んだ、『終末期医療を考えるために-検証オランダの安楽死から-』(盛永審一郎、丸善出版)という本ですが、この本によれば、安楽死が合法化されているオランダでも、実際に安楽死する人はごく少数です。

 

ただ、安楽死という選択肢があるおかげで、「いざとなればこうやって安楽に死ねる」という安心感を抱いて終末期を心穏やかに過ごし、結果として安楽死ではない平穏な自然死を遂げる人たちがたくさんいる、というような記述があります。

 

孤独死についても似たようなことが言えると思いました。孤独死にまつわる不安や恐怖をなくすことで、「いざとなれば孤独死でも悪くない」という安心感を抱いて終末期を心穏やかに過ごすことができるでしょう。

 

結果として孤独死ではなく、家族や知人友人に見守られての死であっても、そこに至るまでの日々を余計な不安や恐怖から解放されるということは、意味のあることだと思います。

 

――確かに本作品は孤独死が中心テーマですが、それを越えて、「死」そのものについて考えるきっかけにもなりますね。

 

まさに、それがわたしの期待するところです。さらに言えば(これこそ執筆する中ではっきり認識したことなのですが)、孤独死であれ、家族や知人に見守られての死であれ、「幸せな死」とは、死ぬ間際に一生を振り返ったとき、「自分なりによく生きたな」、と納得できる死ですよね。

 

たとえ大勢の家族や知人に見守られながら死んでいくとしても、本人が心の中で自分の人生を後悔しているなら、それは決して幸せな死ではないはずです。だとしたら、「幸せな孤独死」は、納得できる一人暮らしの帰結として得られるものです。死に方は、「生き方の決着」というわけです。

 

――ありがとうござます、最後に締めくくりのメッセージをお願いします。

 

だいたい言いたいことは言い尽くしているのですが、あらためて語るなら、「孤独死」について、根拠薄弱な不安や恐怖にからめ取られないで、事実をありのままに見てほしいですね。

 

そして、自分のこととして考えてほしい。お一人様だけでなく、「お二人様」であっても、伴侶が自分より先に逝けば、お一人様の終末を迎えることになるのだから、孤独死は誰にとっても人ごとではないのです。

 

 

松田ゆたか 著

『孤独死ガイド 一人で生きて死ぬまで』

 

 

現在、日本の年間死亡者数約125万人のうち、約3万人が孤独死を迎えているといわれており、2040年には年間20万人に到達するとも予想されています。

つまり、孤独死は今後、多くの人にとって、ますます「身近なもの」となっていくはずです。

しかし一方で、孤独死に対してはいまだに、「かわいそう」「みじめ」といったマイナスイメージばかりが喧伝され、「おひとりさま」たちの不安を増幅させています。

本書は、こんな現状に疑問を抱く現役医師が綴った、「もしかしたら自分も、孤独死するかもしれない」と思っている人のためのガイドブックです。

「人はどのようにして孤独死に至るのか」に関する医師ならではの詳しい解説や、後にトラブルの種を残さず、きれいに生きて死ぬために必要な心構えや準備、さらには著者が考える「孤独死支援ビジネス」のビジネスモデルなどが書かれており、本書を読めば、孤独死に対し、みなさんが漠然と抱いているネガティブなイメージが薄れ、「孤独死も怖くはない」と思えるようになるでしょう。