(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニック開業の準備事項として、「診療圏調査」は必須と言えます。開業後の見込み患者数を予測することは、開業地の検討・選定でも、金融機関への融資審査に必要な事業計画の策定でも、不可欠な要素なのです。前回の記事『クリニック開院に必須の「診療圏調査」とはなにか…読み方の基本を解説』では、診療圏調査においてどのような方法で数値が算出されているのかについて解説しましたが、今回は、一歩踏み込んだ診療圏調査の考え方について解説します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

競合を調査し、どれだけデータに織り込んでいるかを確認

診療圏調査では、一定の考え方で設定された「診療圏」のエリア内における潜在患者数(人口×受療率)を、エリア内に存在する同一診療科の医院数で割り、「推計患者数」を算出します。

 

推計患者数=エリア人口×受療率÷{診療科目別競合医院数+1(自院)}

 

ただし、上記算式により推計される患者数は、かなり「幅」を持ってみなければなりません。その幅は、下記の要素により規定されます。

 

◆診療圏

診療圏は、診療科目、地形、道路状況、生活動線、行政区域などの影響を受けるため、機械的に決めることはできません。それらをどれだけ綿密に考慮した診療圏設定となっているかにより、推計患者数の確度も左右されます。

 

◆競合医院の競争力

上記の算式では、診療圏内にある自院と同じ診療科目を掲げている医院をすべてピックアップします。しかし実際には、ピックアップされた医院を、すべて均等に1件の医院としてカウントするのは不適切です。

 

たとえば、複数の診療科目を掲げている医院では、中心となる診療科以外の科目は、実際にはほぼ診療していないというケースもあります。

 

ほかにも、さまざまな定量的、定性的要素を調査・検討し、その実態を反映して、競合医院数の件数に「重み付け」(各評価項目の重要度を定量評価〈点数化〉すること)の設定をおこなうことが重要です。この重み付けをどのように設定するのかが、最終的な推計患者数に大きな影響を与えます。競合医院のどのような要素をチェックし、重み付けをおこなっているのか確認する必要があります。

 

重み付けに影響を与える要素としては、上述した診療科目の実態の他にも、以下のような定量的、定性的要素があります。

 

◆定量的な要素

●医師数、看護師などのスタッフ数

医師やスタッフの数が少ない医院は待ち時間が長くなったり、対応が粗雑になったりして患者様の不満の要因となります。

 

●待合室の広さや座席数

待合室が狭かったり座席数が少なかったりすると、来院したのに入れないということもあります。

 

●待ち時間

来院患者数が多いことや予約システムを導入していないことで、待ち時間が長くなることが考えられます。また、予約制であっても、待ち時間が長くなるような場合、その不満がクチコミとして書かれているケースが多いです。

 

●駐車場の台数

とくに、車社会の地方や郊外立地では重要な要素です。患者数が多い程、必要台数が多くなるはずですが、初期投資費等の兼ね合いから、十分な台数を確保できていないケースも多いです。

 

◆定性的な要素

●医師の腕、医療サービスの質

腕やサービスというと抽象的ですが、患者様の不満が生じない診療をしているかどうかという点です。すぐ近隣に競合となる医院があったとしても、その診療に患者様の不満が多いのなら、開業の阻害要因にはなりません。

 

●医師の専門性

院長が「専門医」「指導医」などの資格を取得していると、そういった資格を持つ医師がいない医院よりも競争力は高くなります。

 

●応対のよさ

医師、看護師、受付スタッフなど、クリニックのスタッフに無愛想な態度や高圧的な姿勢がないかという点です。診療内容がよくても応対が悪いと、再来院を阻害し、悪いクチコミにもつながります。

現在だけではなく将来も必ずチェック

診療圏調査で見落とされがちなのが、将来にわたっての競争力を確認することです。

 

ここでの将来には、人口動態やそれに基づく医療需要の変化という中長期的なスパンでの動向と、競合医院の開業・廃業という短期的なスパンでの動向の2つの面があります。

 

◆中長期的な医療需要・供給の変化

10年~20年先の、そのエリアにおける医療需要と供給(医院数、医師数等)の変化は必ず確認する必要があります。

 

たとえば、現在、高齢者が多く若年から中年が少ないエリアは、現時点では高い医療需要がありますが、10年以上後には、需要が減少していくことも考えられます。

 

また、現在20~30代が多いエリアなら、現段階では子どもが少なくても、今後増加していくことが見込めるので、小児科などの開院には適しているなど、診療科との関係もあります。

 

なお、将来の医療需要の予測は、各地方行政が策定する医療計画や日本医師会総合政策研究機構が公開している「地域の医療提供体制の現状 -都道府県別・二次医療圏別データ集-」等を確認するとよいでしょう。

 

◆短期的な範囲での競合医院の開業・廃業など

一方、短期的な視点としては、診療圏エリア内での、クリニックの開業・廃業の予定を可能な限り把握したほうがよいでしょう。たとえば、自院が開業予定とするエリアの近隣で、自院よりも先に同じ診療科の医院が開業してしまえば、重大な影響を受けます。

 

あるいは、同一エリア内で多くの患者数を抱えている有力な医院が、院長の高齢化・後継者不在により数年以内には廃業しそうだといったことがわかれば、それも開業検討に有益な情報です。

 

ただしこういった情報は、公表データがあるわけではないので、さまざまなネットワークをたどりながら地道に収集していくしかありません。

 

◆将来動向に影響を与える近隣施設の重要性

将来にわたる集患に大きな影響を与えるものとして、競合医院以外の施設も重要です。たとえば、大型ショッピングモールの施設内や隣接地であれば、将来にわたって一定の集患が見込めるでしょう。しかし、逆に、集客力のある近隣商業施設が撤退してしまえば、医院の集患にも悪影響を与えることがあるでしょう。

 

そのため、競合となる医院だけではなく、一般の商業施設等も含めた将来動向の把握も必要です。

 

◆診療圏調査の数値をそのまま鵜呑みにするのは危険なことも

診療圏調査においては必ずしも、上記のような競合の定量的・定性的要素や、将来動向のすべてが、しっかり調査されているとは限りません。あるいは、調査はされていても、それが診療圏調査の重み付け数値などに反映されていないことがあるかもしれません。

 

そのため、診療圏調査における「推計患者数」の数字を、そのまま鵜呑みにすることはできないのです。

 

推計患者数が多いという結果になっていても、実は近い将来にそれが激減するリスクが高いというケースもあります。

 

逆に、推計患者数の数字はぱっとしなくても、数値化できない定性的な要素を加味して考えると、十分に競争力がある立地だったということもあります。

 

つまり、診療圏調査の数値は、趨勢を判断する参考にはなりますが、それだけで意思決定できるほど絶対的な数値ではないということです。

 

実際に診療圏調査のレポートを閲覧する際は、本記事で述べた定量的・定性的要素や将来動向について、調査会社や担当者にしっかり確認して総合的に判断し、開院の成功確率を高めてください。