(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニック開業を決意して不動産契約を締結したあとに行うのは「クリニックの内装工事」です。しかし、内装設計のコンセプトを誤ると、見当違いな仕上がりになってしまいます。クリニックは自分やスタッフのためではなく、受診していただく患者様とそのご家族のための空間であるという点を忘れてはなりません。本記事では、いくつかのポイントをご紹介します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

クリニックの将来的なビジョンにもリンクしている「内装」

クリニックの内装設計は、ドクター自身の経営理念やビジョン、ターゲットとなる患者様への思いと、深くリンクしています。

 

 

内装工事は、ドクターが「自身が思い描いている医療のうち、どの部分を、どういった方々に向けて提供するのか」という核となる部分を図面に想い描き、反映・具体化していく作業です。これは、クリニックの将来をも左右する重要なプロセスだといっても過言ではありません。

 

同じ診療科であっても、まったく同じ内装のクリニックはありません。そこには、ドクターの好みや個性があるからです。しかし、それと「診療のコンセプトの表明」とは、まったく異なるものです。

 

患者様の満足度や再診率を向上させるには、受付・待合室・診察室・処置室・トイレなど、クリニックのいたる場所で患者さんが気持ちよく過ごしていただけること、そして「また来院したい」と思っていただけるかどうかが重要です。その視点をもったデザイン・設計を心がけてください。

 

ほかの留意点としては、極力隙間をなくし、遮音が可能な素材を選ぶようにします。パーテーションのみでは空気を通して会話が漏れてしまいます。スペースの有効利用のためにも、プライバシーの保護のためにも、極力隙間は減らしましょう。

 

ここからは、それぞれのセクションでの注意点を述べていきます。

 

受付

患者様は、不安を聞いてほしい、症状を改善したいと思い、初めてクリニックを受診します。つまり、緊張と不安、期待というさまざまな感情を持って訪れます。来院して初めに応対するところが受付であり、クリニックの「顔」ですので、患者様が安心できる環境を用意することが大切です。

 

そのため受付は、清潔・安心を感じられる内装デザインを考える必要があります。

 

受付の配色=クリニックの印象(ビジョン)です。壁などの配色は患者様が落ち着いて過ごせるものが推奨されます。空・海などを連想させるさわやかな淡いブルー、植物を連想させる穏やかなグリーン、安らぎを連想させる落ち着いた木目調(茶色)などが無難です。赤、オレンジ、鮮やかな黄色といったインパクトの強い色は緊張感を高めてしまうため、控えたほうがよいでしょう。

 

一般の内科・小児科などの保険診療では、美容系クリニックとは異なり、ラグジュアリー感・高級感の演出はないほうがよいでしょう。インテリアも、豪華なシャンデリア、強い反射のある照明、水槽などは、管理面から控えたほうがいいといえます。患者様の不安や緊張感を和らげるよう、心が落ち着きやすい内装のデザイン、配色を選ぶようにします。

 

受付事務の勤務は女性が多いため、受付周りの収納棚や、机、カウンターの位置が高くなり過ぎないよう配慮が必要です。また、待合室と近すぎると、受付で症状などを口に出しにくくなる場合もあります。受付では何名のスタッフが作業可能か、また、診察室や処置室などに出入りをするために動線は問題ないか等も確認が必要です。

 

受付内の収納スペースは、電子カルテを導入する場合でも、インフルエンザワクチンやコロナワクチンの問診票、健康診断の結果、紹介状保存、患者アンケートなど紙媒体での保存をするものも多いため、広めの設計がお勧めです。

 

 

診察室

小児科の場合は、親御様や同伴者様が一緒に入ることが多く、内科や整形外科では、車椅子や装具を利用される患者様も多いため、バリアフリー可能なレベルで広めに設定してください。

 

熱された患者様を隔離する場合や、健康診断等を行う場合に備え、想定される医師数に加えて1ないし2部屋を確保することも推奨されます。

 

上述しましたが、プライバシーの保護にも十分な配慮を行いましょう。診察室と待合室などはカーテンでは会話が筒抜けとなりますから、必ずドアを設置してください。

 

その他の注意すべきポイントは以下の通りです。

 

●手洗い場や、手指消毒が可能なスペースを設ける

●可能なら窓も設置する

●発熱・感染外来を行う場合は、専用の出入口と待合室・個室を確保する

●待合用のイス間隔を広くとり、向かい合わせにならないようにイスを設置する

 

トイレ

清潔感があること。そして、尿検査を行う場合は、尿検体入れをわかりやすい場所に設置すること。車いすでも入りやすい設計であること。そして、バリアフリーであることも求められます。

 

スロープ、手すりの設置や、開き戸ではなく引き戸にすることなども考えましょう。また、受診患者は女性の方が多い傾向がありますので、2つ以上のトイレがある場合には女性専用のトイレ設置が推奨されます。

 

 

患者導線

受付から待合室・診察室・処置室・レントゲン検査といった動線等は、医療機器の配置も考慮します。レントゲンは奥に、診察室と処置室は隣接させ、点滴などの処置を行う際に医療スタッフがすぐ様子を見に行ける動線が望ましいといえます。

 

これにあたり、クリニックに導入する医療機器は、納期にかかわらず事前に決めておく必要があります。

 

スタッフルーム、院長室

診察室、受付にすぐにアクセスできるような場所への設置が推奨されます。最近ではコロナ感染など感染症予防の観点から、診察室などを休憩スペースと兼用できるようなデザイン・レイアウトも一考する必要があります。

 

プライバシーの確保と、院長のカラーの演出

適切な範囲であれば、院長の考えや趣味などが伝わる装飾やインテリアは、患者様によい印象を与えるほか、ユニークな表現により、他院との差別化が可能となります。

 

たとえば、絵画、アート作品等の装飾や、受付に院長の似顔絵を掲示するといった方法です。

 

ほかにも、待合室の椅子をベンチシートや長椅子ではなく、座り心地のよいソファにしたり、壁紙に木々の木漏れ日などのヒーリングを演出したりするのもよいでしょう。小児科では、キャラクターの利用のほか、鉄道模型も好評でした。

 

上記を踏まえつつ、患者様の心象がよく、なおかつ機能面に優れた設計を行うことが重要です。

 

 

 

武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師