(※写真はイメージです/PIXTA)

医療業界はますます競争が激しさを増しており、クリニックの成功にはブランディングの重要性が増しています。なかでも経営理念は、クリニックの方向性を明確化し、一貫性のある運営を実現するために必須の要素です。ここでは、クリニックのブランディングにおける経営理念の役割について梅岡比俊氏がお話します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

素晴らしいクリニックを運営するために「不可欠なこと」

現在は複数のクリニックを経営する筆者ですが、はじめてクリニックを開業する際に、多くの先輩医師の話や書籍から知識を集めるなかで、「なぜこのクリニックを開業するのか」「これからクリニックをどうしていきたいのか」といった、「クリニックが追求すべき価値観や目標」を「理念」としてまとめる重要性を知りました。しかし、理解に努めていたものの、そこまで理念をコミットメントできていたわけではありませんでした。

 

その後、実際に自分がこのクリニックをどうしていきたいのか、どういった価値観で運営していきたいのかについて突き詰めて考えていたとき、1冊の書物に出会いました。筆者が深い感銘を受けた書籍こそ、ジム・コリンズの『ビジョナリーカンパニー』です。

 

 

そこには、「偉大な組織にはしっかりとしたビジョンがある」「そのビジョンはいわゆる〈絵に描いた餅〉ではない」「ビジョンをしっかりと体現化できている組織こそ伸びる」といった内容が記述されていました。筆者はそこから、「素晴らしい組織とそうでない組織の違いは、ビジョンの内容ではなく、しっかりと体現化できているかどうかである」と受け取ったのです。

 

筆者は『ビジョナリーカンパニー』を一語一句読み返しながら、「自分だったらどうしたらよいだろう?」「どうすれば自分自身が納得でき、スタッフにも明確に伝えることができるのだろう?」と考えていきました。

クリニック運営に「経営理念」が必須となる理由

そもそも、なぜクリニックに経営理念が必要なのでしょうか。

 

①方向性の明確化

経営理念はクリニックの方向性を明確化する役割を果たします。患者様やスタッフはクリニックが何を重視し、どのような価値を提供しているかを知りたいと考えています。クリニックの方向性を示した経営理念があることで、一貫性のある運営を可能にします。

 

②ブランドイメージの構築

経営理念に基づいたクリニックの行動やサービスが、患者様や地域の人々、またそのクリニックで働きたいと思っている応募者に対してイメージを形成します。経営理念が明確でそれに基づいた行動が取れている場合、患者様からの信頼や、同じ価値観を持つ方々からの応募に繋がります。

 

③スタッフの共感とモチベーションの向上

経営理念はクリニックのスタッフに対しても重要な意味を持ちます。共通の理念があるからこそ、院長がいちいち指示を出さなくてもスタッフが方向性を理解し、考え、仕事を進めることができます。

 

上記でお伝えしたように、経営理念はスタッフの採用に欠かせません。筆者が運営するクリニックでは、常勤スタッフの「理念採用」を行っています。まず採用の段階からクリニックの基本的な考え方を伝えることが大切だからです。

 

書籍『ビジョナリーカンパニー』にもありましたが、大切なのは「バスに乗せるのはだれか」ということです。目的の行き先に向かうため、ミッションを叶えるため、だれをバスに乗せるか。重要なのはそこなのです。

 

クリニックの経営者は常に、よりよき人材、より組織にフィットした人材を求め続けることが大切です。自分よりも有能な人材を求める心構えで、常に上へと向かっていくことが望ましいですし、筆者自身も肝に銘じています。

 

クリニックとしての理念、価値観は、スタッフとなる人材に最初に伝えるべきものであり、そのベクトルがはじめから違う場合は、いかに有能な人材を採用しても、クリニックにとっても、働く本人にとっても、よい結果にはなりません。

 

院長の描く理念を、スタッフみんなに浸透させる

「あなたにとって理想のクリニックはどういったものですか?」

 

クリニックの運営は、まずこの問いから始まるといえるのではないでしょうか。

 

アメリカの自己啓発作家、ナポレオン・ヒルの著書にも「思考は現実化する」とありますが、何事もまずは頭の中でイメージ化され、そのイメージを現実化するために実行へと移されます。つまり、まずは採用する側が「理想のクリニック」を想い描く必要があり、その想いや理念を軸に行動を起こすことで、それらに共感・理解したスタッフが現場で主体的に行動する・考えるという習慣ができるのです。

 

次に、組織が大きくなると、リーダーの育成が不可欠となります。院長自身がすべてをカバーするのは不可能ですから、たとえ院長が不在でも、現場が主体的に考え、対応できる組織をつくらなければなりません。また、部門ごとのリーダーがトップと部下との間の橋渡しをすることによって、より円滑に物事が進みます。それにより、スタッフひとりひとりの理解度が深まり、クリニックとしての方向性が、隅々までしっかりと浸透するのです。

 

スタッフは常に院長を見ています。ですから、理念には自分自身が本当に思い描いていることに対してコミットメントしているものしか入れてはいけません。理念に書いていることと、院長の行動に一貫性がない場合、組織にその理念を吸着させるような大きな磁力、磁場というものは生まれてきません。

 

クリニックのベクトルをひとつにするためにも、院長の率直な想いを「経営理念」としてまとめてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

梅岡比俊

医療法人 梅華会 理事長