「正対理論」と「Y字のポイント」
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▼正対理論
ボールを持っている選手が、ターゲットとなる相手に対してへそを向けて正対すると左右両方にパスを出しやすく、もしくはドリブルで抜きやすくなるという理論。
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たとえば敵が目の前にいたとしましょう。ボールを取られるのを怖がって右方向を向いて半身になったら、右にはパスを出せるものの、左にパスを出すのは難しくなりますよね。無理やり左に出しても相手にブロックされてしまいます。
問題はそれだけではありません。
右に出せるとは言っても、そちらにしか出せないので相手にバレバレです。相手チームは事前にプレーを読み、パスを出した瞬間に一気に詰めにくるでしょう。
一方、半身にならず、相手に正対すると、左と右の両方にパスを出すことができる。僕はこの状態を「相手に二択を迫る」と呼んでいます。どちらに出すか読みづらいので、相手チームの反応を遅らせられます。
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▼正対するメリット
・正対する相手に二択を迫れる。
・相手チームにプレーを読ませない。
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この「正対理論」の申し子と言えるのがアンドレス・イニエスタです。
ファーストトラップで相手に正対し、ボールを持ち出すときもスペースへ運ぶのではなく、相手に向かっていくことを基本にしています。
もし、スペースに逃げるようにボールを運ぶと、方向が限定され、最終的に追い込まれてしまいます。それに対してイニエスタのように正対してボールを持つと、左右両方に行けるので相手は簡単に飛び込めません。全盛期のイニエスタは密集地帯でも正対を繰り返し、すいすい抜くことができました。
「正対理論」の有効性をイメージしてもらうために、左センターバックがボールを持ったシーンを想像してみましょう(図表2)。前方にいる選手たちはマークされているとします。
そのとき左センターバックの右斜め前から、敵FWが「同サイド圧縮」をすべく「コースカットプレス」を仕掛けてきたとします。
もし正対しなかったら、左センターバックは前方にボールを持ち出すしかなく、敵FWがどんどん近づいてきて、焦って闇雲に強いパスを出して相手ボールになる…そんな結末になることがほとんどでしょう。
一方、左センターバックが敵FWに体を向け、正対したらどうか?
二択を迫れるので、敵FWを迷わせられます。うまくいけば敵FWは立ち止まるでしょう。もし相手が一か八かで突進してきても、体が右斜めを向いているのでGKへバックパスして「同サイド圧縮」を回避することができます。
「正対理論」を初めて日本に紹介したのは、『蹴球計画〜スペインサッカーと分析〜』というブログだと思います。僕は幸運にもシュワーボに入団したある選手が「正対理論」を実践しており、彼が「レオさんの力でもっと日本に広めてください」と教えてくれたのが知るきっかけでした。
そこから自分なりに「正対理論」を現場で実践しやすいように噛み砕き、ポジショナルプレーの概念とうまく組み合わせられないかと考えるようになりました。ボール保持者が味方ではなく相手に体(へそ)を向けたら、パスの受け手が立つべきポイントも変わると思ったんです。
その結果行き着いたのが「Y字のポイント」という概念です。
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▼Y字のポイント
ボール保持者と相手を線で結び、それを縦線として「Yの字」をつくる位置に2人の受け手が立つ。
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「Y字」の立ち位置は相手と距離が近すぎると角度がないためパスが通りにくく、パスが通った後もプレスを受けやすくなります。相手のプレッシャーから遠く、かつボールホルダーからパスが出しやすい位置が最適なポジションです。
ボール保持者が右斜め前の相手ボランチに正対したら、相手ボランチの両脇の「Y字」が受けどころになります。左斜め前の相手サイドハーフに正対したら、相手サイドハーフの両脇の「Y字」が受けどころです。
より正確に言うと、「Y字のポイント」に受け手が最初から立っているとマークにつかれる可能性があるので、タイミング良くポイントに顔を出すのが理想です(囮〔おとり〕になる場合はあらかじめ立っていてもいい)。このパスコースにタイミング良く現れることを、僕はポジショニングと区別して「アピアリング」と呼んでいます。
ボールホルダーの正対→Y字へのアピアリングを駆使し、プレーの判断を正確に行うことで、ポゼッションとボールの前進が実行しやすくなります。