少子高齢化が進展する日本。若い世代は仕事を求めて都市へ集中し、地方は高齢化・過疎化が進んでいます。もし地方在住の親が亡くなれば、都市部在住の子どもが遺産を相続することになりますが、そこで問題になるのが、「誰も住まない実家」です。面倒だからといって放置すると、大変なリスクを背負い込むことになりかねません。

相続したものの…両親亡きあとの「地方の実家」に困惑

地方の実家で育った方が、大学進学や就職時に都市部へ移り住み、そのまま結婚して都市部で生活する…というパターンは非常に多いのではないでしょうか。そこで、のちのち問題となるのが、「実家の相続」です。

 

両親が暮らしている間は、管理も納税もすべて親任せにしていても、もし介護施設への入所や、突然亡くなるといった事態になるとどうでしょうか。実家の管理のためだけに遠方から定期的に足を運ぶなど、考えただけでも大変です。また、実際に相続したあと、実家をどうするべきか、多くの方が頭を痛める問題だといえます。

誰も住まない実家「借り手なし、買い手もつかず」

地方の実家に買手がつかない、想定していた金額で売れないというのは、よくあることです。

 

なかでも、買い手を探すこと自体が難しいのは「道路付け」に難があるケースです。道路付けとは、「接道条件」ともいわれ、土地に対して道路がどのように接しているかを示したものです。書類等への記載では、「東6m・南4m」など、土地と道路が接している方角と、道路の幅員を組み合わせて表記されます。

 

敷地に建物を建てる場合、建築基準法では「接道義務」といって「道路に2メートル以上接していなければならない」という条件があるのですが、その接道条件を満たしておらず、建て替えできない土地というものが存在します。そういった土地は「再建築不可」となり、買手がまったく現れないこともあります。

 

解決策のひとつとして、今の建物をリフォームするという方法もありますが、そもそも道路付けが悪い状況にあることから、リフォームするにしても、工事用の大型車両を近くに停めづらいという、現実的な問題があります。そうなると、人の手で材料や機材を運搬することになり、そのぶんリフォーム費用も増額してしまいます。何よりリフォーム工事の内容自体に制限が生じるリスクがあるのです。

 

このような問題が生じる状況では、そもそも賃貸に出すことが難しくなりがちです。駅近の築浅のマンションなら良いのですが、地方の築古の戸建てとなれば、賃貸に出すこと自体が難しいでしょう。仮に賃貸に出せたとしても、家屋が古いことから、たびたび修繕が必要になる可能性もあり、場合によっては、賃借人と修繕義務等を巡って紛争化する危険もはらんでいます。

 

高齢の親は「家を残せば財産になる」という思いがあるかもしれませんが、実情は大きく異なり、地方の戸建て物件によって、相続人が処分に苦悩することになりかねません。

空き家の放置で、倒壊・不審火リスク、金銭的な問題も

では、相続したあとに固定資産税だけ負担して放置しておけば良いかといえば、それも危険な考え方です。実際、管理が甘い空き家に、犯罪者や路上生活者が居着いたり、素行不良の若者のたまり場になったりするケースがあります。なかには不審火によって全焼した事例もあるのです。

 

管理者がいない不動産には、どうしてもこの手の犯罪リスクがつきまといます。万が一、相続した物件に同様の問題が生じ、近隣に危害が及んだとしたら、建物所有者は責任を問われることになります。

 

また、木造の築古物件のなかには、倒壊の危険性があるものもあります。数として多いものではありませんが、これまでに全国で数件、倒壊の可能性のある物件が、行政によって処理されています。

 

建物のトラブルばかりではありません、敷地内の庭木の手入れが行き届かず、近隣から、伸びた枝の侵入や、大量の落ち葉といった苦情が寄せられるケースです。家屋はもちろんですが、庭の草が生い茂れば、人目が届かないことから、不審者はもちろん、動物が棲みつくなどして、やはりトラブルの原因となるのです。

 

処分や運用が難しいからといって放置することが、さらに深刻な問題を生み出すという、非常に困った事態になってしまいます。

親が存命のうちから、しっかり対策を立てておこう

実家の不動産の処理は、非常に悩ましい問題です。法的な局面からも放置するのは難しく、かといって、幼いころから育った土地建物を、今後のトラブルになる可能性から、二束三文で手放すというのも、心情的に納得できない点があるのではないでしょうか。

 

納得できる選択肢となるのは、多少リフォームや建て替え費用がかかったとしても、近隣に住む親族等に住み続けてもらう、あるいは、隣接している住民の方に買い取ってもらう方法かもしれません。また、「住む人がいなくて困っている」という話をしていたところ、実家と同じ県に住む親族から、「それなら自分がほしい、住みたい」と手が挙がったというケースもあります。

 

接道義務を持たない土地については、形状にもよりますが、道路と接する土地を購入して2メートルの接道確保を試みるのも選択肢です。近隣に該当の土地の所有者がいれば交渉し、購入・あるいは等価交換などを行い、要件を満たした土地にするのです。さらに、もし隣接する土地の所有者が同様の状況で困っている場合は、声をかけて土地を買い取り、相続した土地と合わせることで、土地の形状や接道などの条件を改善し、利用価値の高い土地として高く売却するという方法が取れることもあります。

 

いずれにせよ、相続人が都心部で生活しており、地方の実家不動産の管理者がいないというのは、本当に悩ましい問題です。単なる投資用の土地と異なり、代々引き継がれた財産に対する思い、あるいは家族と過ごした子ども時代の記憶があるのですから、ある意味当然かもしれません。

 

この点については、所有者であるご両親が健在のうちに、関係する親族みんなで腹を割って話し合い、今後の実家の在り方について、検討しておくことが重要だといえるでしょう。

 

(※守秘義務の関係上、実際の事例から変更している部分があります。)

 

 

山村 暢彦(山村法律事務所 代表弁護士)

 

本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。