(※画像はイメージです/PIXTA)

不動産価格が大きく上昇した、2021年のアメリカ。ただ都市単位で注目していくと、価格が上場している都市があれば、下落している都市も。そこでふり幅が大きかった都市に注目してみていきましょう。

全米で家賃上昇率・下落率の振り幅が大きかった都市

アメリカの不動産価格が驚異的な上昇率を記録した2021年。不動産の売買価格に連動するようにして、賃貸物件の家賃も高騰しています。

 

大手賃貸情報プラットフォームZumperのレポート※1によると、2022年1月に掲載された全米の物件の家賃中央値は、寝室1部屋の物件で 1,374ドル(前年比12.0%)の上昇を記録。寝室2部屋の物件では1,698ドル(前年比14.1%)も上昇しました。米国不動産の魅力として、キャピタルゲインだけでなく、インカムゲインも伸びやすいことがよく引き合いに出されますが、これほどまでの上昇は過去にもなかなか類のないケースのようです。

 

※1:Zumper“Zumper National Rent Report” 2022-1-27

https://www.zumper.com/blog/rental-price-data/

 

しかし、全米の家賃が一様に上昇しているわけではなく、エリアによっては下落している地域も存在します。この記事ではZumperのレポートをもとに、家賃の上昇率・下落率の振り幅が大きかった都市を紹介していきます。

上位の都市は20%台後半の驚異的な上昇率

Zumperの家賃の中央値ランキング上位100位の都市のうち、寝室1部屋の物件の家賃上昇率トップ5は以下の都市です。

 

1位 カリフォルニア州フレズノ(28.2%)

2位 アリゾナ州スコッツデール(27.6%)

2位 フロリダ州オーランド(27.6%)

4位 テネシー州ノックスビル(27.4%)

5位 マサチューセッツ州ボストン(26.5%)

 

1位のフレズノはパンデミックによる人々の郊外志向の高まりと、低金利な住宅ローンによって、住宅の購入希望者が多く流入している都市。もともとは農業集積地でもあるため、州内では比較的物件の価格が安く、リモートワークなどにも向いている都市と言えます。物件購入者が増えた分、賃貸物件の数が不足し、家賃が跳ね上がった形と言えそうです。

 

2位のスコッツデールは、リゾート施設も多数存在する温暖な都市で、富裕層からも人気の高いエリア。隣接する州都フェニックスは全米有数の経済成長都市でもあり、雇用が増えていることから人口も増加。物件の争奪戦が起こっています。

 

寝室2部屋の物件の家賃上昇率トップ5を見ると、顔ぶれがまた変わってきます。

 

1位 フロリダ州フォートローダーデール(27.7%)

2位 フロリダ州 オーランド(27.6%)

3位 フロリダ州タンパ(27.5%)

3位 ネバダ州ラスベガス(27.5%)

5位 ニューヨーク州ニューヨーク(27.3%)

 

フロリダ州の都市が1位〜3位までを独占。同州はコロナ禍によるリモートワークの普及で、移住者の数が加速した州。温暖な気候で観光資源も豊富なフロリダ州は、移住者にとって大きな魅力を備えた地域だと言えるでしょう。とりわけ1位のフォートローダーデールは、フランスのニースや日本の葉山にも例えられるようなハイクラスエリアで、もともと高かった人気がさらに加熱する形となっています。

大都市圏を中心に25%以上の下落率を記録した都市も

次に、家賃の中央値ランキング上位100位のうち、寝室1部屋の物件の家賃上昇率ワースト5の都市を見ていきます。

 

1位 ニュージャージー州ニューアーク(−25.1%)

2位 ウィスコンシン州ミルウォーキー(−16.7%)

3位 バージニア州リッチモンド(−12.6%)

4位 ミネソタ州ミネアポリス(−8.5%)

4位 ミズーリ州セントルイス(−7.1%)

 

ちなみに寝室数2部屋物件のワースト5も3位までは同順。ニュージャージー州ニューアーク(−14.9%)、ウィスコンシン州ミルウォーキー(−8.0%)、バージニア州リッチモンド(−6.8%)に続いて、テキサス州ラレド(−6.1%)、イリノイ州シカゴ(−4.8%)がランクインする形となりました。

 

これらの都市は、いずれも州を代表するような大規模な都市です。例えば1位のニューアークはニュージャージー州最大の都市でニューヨークにもほど近い大都会。2位のミルウォーキーはウィスコンシン州最大の都市で、3位のリッチモンドもバージニアの州都となっています。

 

これらの地域では、パンデミックのもたらした「都市から郊外へ」という移住トレンドによって逆に転出者が増え、家賃も下がった形だと言えるでしょう。寝室1部屋の物件の下落率が高いのは、独身者や子どものいない家庭の方がフレキシブルな転居ができるためだと言えそうです。

 

またこうした地域からの転出先に選ばれるのは、南部のフロリダやアリゾナが多いと言われており、この傾向は家賃上昇率が高い都市とも一致します。

当分は現在の家賃水準が継続する?

これらのデータから読み取れる、家賃推移のシナリオをざっくりまとめると以下のようなものになりそうです。

 

まず大規模な低金利政策によって、米国全土で住宅を買う人が増加。それによって賃貸住宅数が不足し、入居競争率が高まったことで全米の家賃が全体的に上昇。特に環境の良い郊外や、経済成長都市など、移住者が殺到したエリアでは急激な家賃上昇を見せました。逆に、もともと大規模で、都市として成熟していた地域では流出人口が増え、家賃は下落傾向に。

 

全米でも最都心でありながら、家賃も上昇しているニューヨークなど一部例外はありますが、おおむねこのような背景のもと、空前の家賃上昇が発生したと考えられます。金利が上昇しつつある2022年は、こうした家賃上昇の流れにブレーキがかかると見る向きも強いですが、一度上昇した家賃が急激に下がることも考えにくいため、しばらくは現在の家賃水準が継続すると考えられそうです。

本記事は、富裕層のためのウェブマガジン「賢者の投資術」(Powerd by OPEN HOUSE)にて公開されたコラムを、GGO編集部にて再編集したものです。