富裕層のなかには、家に代々伝わる高額、希少な美術品を持つ人も少なくありません。美術品の梱包・輸送・保管までワンストップで取り扱っている、武蔵通商株式会社代表取締役の澤田仁氏によると、美術品の最大の課題は「価値保全」にあるそうですが、一体なぜなのでしょうか。澤田氏にお話を伺いました。

日々変動する「美術品」の価値を保全するためには?

美術品には時代の嗜好や価値観などによる流行があり、その価値は日々変動します。株式と同様、買い手がいれば価格は高く、いなければ低くなるのです。ただ、株価と異なるのは、簡単にその価値を確認することができず、実物があるために、傷や汚れの有無などのコンディションによって、大きく価値が変化する点です。

 

美術品は移動の際は「保全」が最重要
美術品は移動の際は「保全」が最重要に

 

高額で希少な美術品は、オークションなどにより移動させる機会が多いものですが、その際、梱包や輸送、保管は、価値保全のために、専門の業者に依頼することがほとんどです。しかし、約6万社ある輸送会社のうち、高額希少な美術品を扱える会社は数える程しかありません。

 

美術品の梱包、輸送、保管(据付も取扱あり)のすべてをワンストップで提供している武蔵通商株式会社は、美術品の価値を保全する技術を、どのように手に入れたのでしょうか。同社代表取締役の澤田仁氏にお話を伺いました。

武蔵通商株式会社 代表取締役 澤田仁氏
武蔵通商株式会社 代表取締役 澤田仁氏

「弊社は1969年の設立当時、精密機器の梱包をメインで受け持っていました。その後、輸送から据付まで事業領域にするようになります。

 

5年ほど前、弊社のさらなる事業展開を考えるなかで『デリケートな精密機械の梱包・輸送・保管のノウハウを、高額・希少な美術品や楽器にも活かせるのでは』と感じ、当事業への参入を決めました。BtoBの業務のみを行っていた弊社に、富裕層市場というBtoCが加わることになったのです。

 

当時、美術品や高級品の輸送は、一部の大手企業への依頼が主流で、料金設定も高額でした。通常、美術品の輸送においては作業工程ごとに専門家がいるため、関連会社や下請けへの外注により価格が高騰していたのでしょう。

 

そんななか、あるお客様から、高級家具の移設を家具メーカーに依頼したところ、100万円を超える見積りを出されたとご相談頂き、わたしたちは、家具メーカーの見積もりの4分の1、約25万円でお客様の依頼を受けました。超高額な精密機械を取り扱うなかで培った、商品を傷つけないで、ワンストップで梱包・輸送・据付までできる弊社の強みを、高級家具にも活かすことができたのです」

美術品梱包、輸送、保管…武蔵通商の強みは「専門性」

 

希少・高価な美術品を取り扱う際には「慎重な取り扱い」が求められるものですが、澤田社長によると、武蔵通商には、その点において他社とは異なる「強み」があります。

 

「美術品の価値を保ったまま、梱包、輸送、保管を行うためには、すべての過程において、専門的な知識・技術が必要になります。

 

弊社では、依頼を受けた商品や搬出入場所ごとに、最適な『梱包設計』や『作業工程設計』を行っています。品物の材質、形状はもちろん搬出入経路や設置箇所の環境に応じ、お客様のご要望に合わせて、最も効率的で安全な梱包、作業工程を提案しています」

公的な資格を持ったスタッフが、美術品の安全を保証!

商品ごとの『梱包設計』は匠の技ゆえに、誰もがすぐにできるようにはならないでしょう。武蔵通商では、スタッフのスキルアップのために、『能力マップ』を採用しています。

 

「スタッフのスキルアップを実現するためのツールとして、弊社では『能力マップ』を採用しています。スタッフ1人ひとりが持っているスキル、身に付けたスキルを明確化することで、社内に『匠の技』を持つスタッフを着実に増やしているのです。

 

また、社内教育の徹底と同時に、公的資格の取得にも力を入れました。弊社が美術品の取り扱いを始めた時期に、日本博物館協会が認定する『美術品梱包輸送技能士』という資格制度がはじまりました。企業ごとに受験できる人数には限りがありますが、弊社の社員も毎年受験しています。合格者は着実に増えており、総社員数に占める取得者の割合は業界トップクラスです。

 

『美術品梱包輸送技能士』試験の練習風景
『美術品梱包輸送技能士』試験の練習風景

 

さらに包装物流のスペシャリストともいわれる、『工業包装技能士』『包装管理士』の資格を持つスタッフもいるため、どのような美術品にも対応することができます」

 

もちろん、技術は現場で磨かれていくものでしょう。けれども、公的な資格を持ったスペシャリストが、美術品の価値保全を保証するということは、利用者の安心感を生みます。

 

加えて、武蔵通商では、スタッフのほとんどが搬出入と輸送の際に必要な移動式小型クレーン技能、玉掛け技能、フォークリフト運転等の資格を取得しています。社内の技能継承に加え、資格取得の補助にも力を入れている武蔵通商は、サービスの品質向上に余念がありません。

日本の美術品市場…発展のカギは「物流」が握る

新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、物流のニーズは多様化・高度化しています。澤田氏は、どんな商品であっても、お客様にとって最適なソリューションを提案、提供していくことが重要だと語っています。

 

「日本の美術品市場の規模は推定2580億円、コロナ禍の前までは4年連続で増加していました。同じアジアであっても、香港やシンガポールに比べるとまだ成長の余地があります。当然、そこには当社のドメインである梱包、輸送、保管といった付帯業務が生まれてきます。

 

それだけに、物流業界の地位向上が重要なのです。物流という仕事は幅広く、奥が深い。ただ残念なことに、裏方的なイメージが強いため、社会的存在感という意味ではまだまだ薄いといわざるをえません。そのことが人材不足や、ドライバーの高齢化といった課題につながっているのでしょう。

 

美術品を取り扱う上で、梱包や輸送の難易度が高い商材だけでなく、据付や移設が困難な現場も多数存在します。物流は扱う商材や場所により形態が変化するものですが、弊社は品質と技術という付加価値の提供を通して、お客様のあらゆるニーズにお応えし、働く人の達成感や働きがいを見出しながら物流業界全体の底上げ、社会貢献に寄与していきたいと願っています。

 

実際、実業家や経営者の方は、希少・高価な美術品やワインに対して『資産形成』の観点から興味を持っているようです。今後、美術品の梱包・輸送・保管の需要はさらに拡大していくことでしょう。成長の可能性を秘めた日本の美術品市場において、物流が大きなカギを握っていることは間違いないといえます」

 

次回は、美術品の価値保全において重要な3つのシーンのうち、「梱包」について見ていきます。

 

 

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