企業の新しい資金調達手段として注目を集めている「ソーシャルレンディング」。また投資家にとっては銀行の定期預金や国債などに代わる新たな資産運用手段として関心が高まっている。ジャルコは貸金業と不動産業で長年培った実績やノウハウを生かして信用力の高い企業を厳選して融資対象とすることで安全性を確保している。「ソーシャルレンディングは社会インフラとしての新しい社会基盤であるべき」とジャルコ社長の田辺順一氏は力説する。第1回は、社長の田辺順一氏がなぜジャルコがソーシャルファンディング事業に参入したのかを語る。

定期預金や国債などに代わる新たな資産運用手段

企業の新しい資金調達手法として近年、注目を集めているのが「クラウドファンディング」です。「群衆(Crowd)」と「資金調達(Funding)」を組み合わせた造語で、インターネットを通じて不特定多数の人から資金を集めるというものです。

 

クラウドファンディングは欧米を中心に拡大しており、日本でも着実に成長しています。国内のクラウドファンディング市場規模は2044億円(矢野経済研究所調べ、2018年度見込み)とみられています。

 

クラウドファンディングには「貸付型」「購入型」「寄付型」「株式型」などのタイプがありますが、全体の約9割を占めるのが「貸付型」です。貸付型は「ソーシャルレンディング」とも呼ばれ、投資家からも銀行の定期預金や国債などに代わる新たな資産運用手段として注目されています。

 

田辺順一・JALCOホールディングス株式会社 代表取締役社長、株式会社ジャルコ 代表取締役社長
田辺順一・JALCOホールディングス株式会社 代表取締役社長、株式会社ジャルコ 代表取締役社長

 

ソーシャルレンディングは基本的にファンドの募集時点で利率が決まっており、投資家はソーシャルレンディングの事業会社と「匿名組合契約」を交わして、融資したいファンドに出資します。その出資金をソーシャルレンディングの事業会社がお金を借りたい企業へ融資します。その後、企業から返済された元本と利息をソーシャルレンディングの事業会社が投資家へ分配するというのが基本的な仕組みです。

 

ソーシャルレンディングは通常、1万円程度の少額から投資ができ、年率5~10%という高い投資利回りが特徴で、効率的な資産運用手段の一つとして認知度が向上しています。

 

ただ一方で、ソーシャルレンディングは投資利回りが高いため、リスクも大きいという不安を抱いておられる投資家も少なくありません。確かにソーシャルレンディングは元本の保証はありませんし、融資先の企業が倒産するなどして投資資金が返ってこないというケースも実際に起きています。

 

社会インフラとしての新しい金融システムの構築

そもそも企業はなぜ銀行ではなく、利率が高いにもかかわらず、ソーシャルレンディングの仕組みを使ってお金を借りるのでしょうか。

 

理由はいくつかあります。ベンチャー企業など創業年数が浅く取引の実績も少ないため、銀行からの融資が十分に受けられなかったり、新規事業など銀行からリスクが高い融資案件とみなされたり、銀行からの融資はすでに受けているものの追加資金が必要といった場合などです。ソーシャルレンディングではそうした企業に対して、融資をしても大丈夫かどうか厳正な審査を行ったうえで、ファンドを組成します。

 

私たち株式会社ジャルコは2015年にソーシャルレンディング市場に参入し、「J.LENDING」を運営しております。ジャルコは1956年設立の会社で、ナスダック上場企業であるJALCOホールディングス株式会社の100%子会社です。

 

ジャルコの祖業は電子部品製造でしたが、事業転換を図り、現在の主たる事業は2つです。1つは不動産事業で、現在、全国に26カ所、約300億円の不動産を保有。大手流通企業や自動車メーカー、アミューズメントなどの優良顧客にテナントとして貸し出し、20~40年といった長期契約で安定した収益を確保しています。2020年度は年間約17.5億円の賃料収入を見込んでいます。

 

もう一つの主事業は、貸金業です。これは個人向けではなく、不動産賃貸業をはじめさまざまな企業への融資を行っています。

 

ジャルコの収益の80%をこの二つの事業が占めています。M&A等の新規事業を含めて業績は順調に伸びており、JALCOホールディングスの2021年3月期の売上高は前年同期比約60%増の27億6000万円、営業利益は同約21%増の13億円の見込みで、4期連続の増収増益となる予想です。

 

この安定した2つの事業基盤をベースに、第3の事業の柱と位置づけているのが、ソーシャルレンディングです。

 

「J.LENDING」の具体的なサービス内容については次回に詳しくご説明したいと思いますが、当社は不動産事業と貸金事業で培った実績やノウハウを生かし、信用力の高い企業だけを厳選して融資対象とすることで、より安全性の高いローンファンドの供給を行うことを志向しています。究極的に目指しているのは、社会インフラとしての新しい金融システムの構築です。わかりやすくいえば、銀行の定期預金に代わる受け皿になることが最終的な目標です。

 

匿名化解除で他社と安全性で差別化できる

そのために2019年度からソーシャルレンディング事業に本格的に取り組み始めました。実は当社は2015年の事業開始から2018年度までの4年間、ファンドの募集額(実績)は年間1億円程度でした。あえて積極的な事業活動は行っておらず、したがって業界での知名度も低いのが実状です。

 

ソーシャルレンディング事業を控えていたのには理由があります。投資家側から見た時に、ソーシャルレンディングの大きなリスク要因は、融資先の透明性が低いことです。これまで貸金業法の規制により、ソーシャルレンディング会社は投資家に対して、クラウドファンディングで集めた資金の融資先を匿名にする義務が課せられていました。

 

しかし、投資家からすると、借手企業が本当に信用できるかどうかがわからないと、適切な投資判断ができません。当社はその点を強く疑問視していたため、ソーシャルレンディング事業に関しては活動を最小限にとどめていたのです。

 

事業環境が変化したのは、2019年3月に金融庁が匿名化解除を発表したことです。これにより融資先の情報を投資家に開示できるようになりました。当社としても情報開示により健全なソーシャルレンディング事業が可能になったと判断、積極的な事業運営に乗り出しました。

 

これまで控えていたメディアへの露出を増やすなど「J.LENDING」の認知度アップに努めた結果、口座数は順調に増加しています。特に2020年10月以降、新規の口座数は以前の5倍のペースで増えています。

 

実際、ソーシャルレンディング事業開始5周年を記念して2020年12月に募集した2つのファンド(投資利回り年率7%、計3億8000万円)は募集開始後、即完売しました。そのため1億円のファンドを追加募集しましたが、1分足らずで完売となりました。年明け以降も新たな募集を行う予定で、2020年度は約15億円のファンドの募集を見込んでいます。

 

 

田辺 順一
JALCOホールディングス株式会社 代表取締役社長
株式会社ジャルコ 代表取締役社長

 

 

取材・構成/田之上信
※本インタビューは、2020年12月16日に収録したものです。

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