「老後は海外でのんびり暮らしたい」「子どもにいい教育機会を与えるために海外移住をしたい」――近年、海外の居住権や永住権を取得しようとする富裕層が増えている。そんな中、英語ができなくても、ビジネスをしなくても、移住する国の企業や不動産等に投資することで取得できる「投資家ビザ」が注目されている。本連載では、日本のみならず、世界の富裕層の間でも人気が高まっている「投資家ビザ」の概要とその魅力について、ポルトガル、米国等の実例をもとに徹底解説する。第1回目は、各国の「投資家ビザ」を取得するメリットについて、株式会社アエルワールド代表取締役・大森健史氏に伺った。

安心の海外生活実現には長期滞在ビザや永住権が不可欠

過ごしやすい気候、フレンドリーな人々、おいしい料理…海外旅行をすると、その土地の魅力にすっかり憑りつかれ、「いつかはここに住んでみたい」と思うものだ。実際、ハワイやフロリダなどのリゾート地に魅せられて、毎年のように通う日本の富裕層も多い。

 

だが、1週間や10日程度ならまだしも、数ヵ月、数年と長期滞在を希望するのであれば、どうしてもクリアしなければならないのがビザの問題だ。日本人は外国人に比べて、ビザの必要性に関する意識が薄い。それは、幸いにも日本のパスポートが『世界最強』だからである。

 

日本のパスポートで「ビザなし」で渡航できる国は189ヵ国(2019年、ヘンリー&パートナーズ調べ)。これはシンガポールのパスポートと並んで堂々の世界1位である。いかに日本人が世界から信頼されているのかを示す証拠といえるが、これほど多くの国に「何もしなくても」行けるのだから、ビザに対する意識が希薄になるのも無理はない。

 

だが、ビザなし滞在が認められるのは、あくまでも“旅行者”としての滞在期間だけ。国・地域にもよるが、せいぜい1~3ヵ月が限度だ。

 

株式会社アエルワールド代表取締役社長 大森健司氏
株式会社アエルワールド代表取締役
大森健史氏

「数年単位で滞在するとなると、長期滞在が認められるビザが必要です。3ヵ月に一度出国して短期滞在ビザの更新を繰り返す人もいますが、あまりにも出入国が頻繁だと入国を拒否されたり、その時は入国を認められても次回より何らかのビザ申請を求められたりする恐れがあります」と語るのは、海外生活・投資コンサルタントでアエルワールド代表取締役の大森健史氏である。

 

長期滞在のため現地でセカンドハウスを購入したのに、二度と入国できず、住めなくなってしまうといった悲劇も起こり得る。そんなリスクを避けるためにも、長期滞在可能なビザの取得が不可欠なのだ。しかし、これまでの長期滞在ビザは、現地の学校で学ぶための学生ビザ、英語や現地の言葉が話せて、一定の技能を持つ人に発給される就労ビザ、現地でビジネスを行う人に発給される経営ビザなど、敷居の高いものがほとんどであった。

 

富裕層の中には、「現地で飲食ビジネスでもやれば、ビザと収入が確保できて一挙両得じゃないか」と軽く考える人もいるようだが、「現地の事情も知らず、慣れないビジネスを始めても成功する確率はかなり低いといえます。店舗賃料や人件費など、必要とされるコストも決して小さくありません」と大森氏は警告する。じつは、もっと手軽に海外で長期滞在の権利を得る方法があるという。それが、大森氏が薦める「投資家ビザ」だ。

 

「永住権・市民権」を獲得すれば可能になること

「投資家ビザ」とは、移住する国の企業や不動産・国家プロジェクトに投資することで取得できる『特別なビザ』である。取得条件は非常にシンプルだ。移住する国が求める最低投資額以上を、上記の不動産やプロジェクト等に投資するだけである。

 

「英語や現地語ができなくても、現地でわざわざビジネスをしなくても、お金を入れるだけで比較的簡単に取得できます。現在、米国やドバイ、ポルトガルをはじめとする南欧の国々などが『投資家ビザ』制度を設けており、これらの国々に長期滞在したいと考える日本の富裕層の方々の利用が広がっています」(大森氏)

 

ハワイに住みたいという人は米国のグリーンカード(永住権)を、気候が温暖で治安もよい南欧に住みたい人はポルトガルやスペインが発給する「ゴールデンビザ」(長期滞在ビザ)を取得すれば、憧れの海外生活が手軽に実現する。国によっては、長期滞在ビザを取得後に、一定の条件をクリアして永住権、市民権を取ることも可能だ。

 

「永住権や市民権を取得すれば、その国の公共サービスも利用できるようになります。たとえば、留学生にとって米国の学校は学費が高いことで知られていますが、永住権を持てば高校まではお子さんの公立の学費は無料になり、その後も学費が安い州立の大学に通わせることができるわけです。留学生と比べて半額以下も珍しくありません。」(大森氏)。

 

また国によっては、投資優遇措置税制上のメリットも受けられる可能性があるという。そのうえ、国によっては投資額がそれほど大きくないことも「投資家ビザ」の利点である。米国の投資永住権プログラムである「EB-5」の場合、最低投資額は50万米ドル(約5,400万円)。ポルトガルの「ゴールデンビザ」は35万ユーロ(約4,200万円)だ。

 

「フィリピンやマレーシアのように、数百万円で長期滞在ビザを取得できる国もあります。地政学リスクや将来の為替変動などを考慮して、複数の国の『投資家ビザ』を取得しておく方法もあるでしょう」と大森氏はアドバイスする。

 

実際、大森氏が海外生活・投資コンサルティングを行っているアエルワールドの顧客には、一度に3~4ヵ国の「投資家ビザ」の申請を相談する富裕層が多いという。それでも、投資額の合計は1億円前後といったところだ。

 

「1ヵ国から始めて、段階的に国の数を増やしていく方法もありますが、当社では、数ヵ国まとめて申請する方法をお勧めしています。なぜなら、先にどこかの国の『投資家ビザ』を取得してしまうと、ほかの国の審査条件を満たせなくなる場合があるからです」(大森氏)

 

また「投資家ビザ」の取得条件は年々厳しくなっている。たとえば、日本人に人気が高いニュージーランドの「投資家ビザ」の最低投資額は、3年ほど前には150万NZドル(約1億円)だったが、現在では300万NZドルと2倍になっている。オーストラリアも75万豪ドル(約5,600万円)から150万豪ドルに倍増した。

 

そしてこれは最新情報だが、米国の投資永住権プログラムである「EB-5」の投資金額が2019年11月21日以降は50万ドル→90万ドル以上に値上がりすることが決まった。

 

「世界的に富裕層人気が高い『投資家ビザ』は、今後も条件が厳しくなっていく可能性があります。条件が比較的緩いうちに、気になる複数の国のビザをまとめて取っておくことがお勧めです」と大森氏はアドバイスする。

 

同社では複数のビザを取得することを「ビザのポートフォリオ」と呼んでおり、お気に入りの国のビザを増やしておけば、日本が真夏の8月頃はカナダやニュージーランド、日本が冬の12月頃は温暖なハワイやポルトガルやドバイといったように、季節ごとに住む場所を変えたり、気分や生活スタイルを変えたいときに移り住んだりすることもできる。
そんな自由な暮らしこそ、老後にはぴったりではないだろうか?

 

取材・文/渡辺賢一 撮影(人物)/永井浩
※本インタビューは、2019年7月3日に収録したものです。