2017年5月、120年ぶりとなる民法(債権法)の大幅改正が行われた。施行は2020年からで、企業間商取引や支払いなどで様々な影響が予想される。注目されるのが「債権譲渡禁止特約」に関する大幅な変更である。中小企業にとっては資金調達の新たなオプションが生まれ、同時に金融機関にとってもいわゆる「事業性評価融資」の可能性が一気に広がる。本連載では、売掛債権の評価・モニタリングの第一人者である田中丸修一氏をお迎えし、Tranzax・小倉隆志社長との対談形式で詳しく解説する。第3回目のテーマは、「民法改正で大きく変わる『債権譲渡禁止特約』の解釈」についてである。

債権譲渡が「基本契約の履行義務違反」にならない理由

小倉 これまで中小企業や銀行が一番心配していたのは、債権譲渡禁止特約があるのに債権譲渡すると、基本契約の履行義務違反になるのではないかということです。

 

株式会社電子債権応用技術研究所
代表取締役研究所長
田中丸 修一 氏
株式会社電子債権応用技術研究所
代表取締役研究所長
田中丸 修一 氏

田中丸 確かにこれまでは、基本契約の履行義務違反に当たり、債権譲渡が無効なだけでなく、基本契約そのものにも違反して、取引中止に追い込まれるのではないかという心配がありました。新法ではどうなるのかというのは、非常に大きなポイントなのです。

 

その点について法務省の見解は、仮に基本契約の条項に反して債権譲渡がされても、もとの債務者へ支払うという方法はオプションとして行使できるので、なんら基本契約の履行義務違反による損失を被っていない。だから契約違反ではない、と考えられるというものです。

 

小倉 とすれば、金融機関や中小企業が新しい債権法のスキームを使ってどんどんファイナンスに活用していくことが重要になりますね。

 

田中丸 新しい債権法の施行は2020年の4月1日からです。それまでに、どう周知徹底するかがとても重要だと思います。基本的には、ABLと同じように、経産省が主導すべきではないでしょうか。経団連などを通して大企業をどう指導していくかが問われます。法の理念をきちんと知らしめ、さらに基本契約の履行義務違反にも当たらないという解釈についてもしっかり理解してもらう。そういうステップをこの2年間でやるということです。

 

「債権者起点」のファイナンスが日本でも可能に⁉

Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志 氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志 氏

小倉 日本はこれまで、譲渡禁止特約がないことの確認や、債務者の承諾が商取引にファイナンスをつけるときの絶対的な条件でした。いわば、「債務者起点」のアプローチです。一括ファクタリングや電子記録債権などにおいても、債務者(発注者)側のイニシアチブで取り組むのが一般的です。

 

金融機関が発注者である大企業に働きかけて、買掛債権を一括ファクタリングや電子債権にしましょうと提案していたのです。それをやらないと、債権譲渡禁止特約を超えられなかったからです。しかし、中小企業の立場からすると、それでは自社の必要資金のごく一部しか調達できないので困る。アメリカのように「債権者起点」のアプローチであれば、売掛債権やさらに集合債権、将来債権を担保にすることも可能になります。

 

実際、アメリカでは個別の売掛金ではなく、一定期間に発生する売掛金をまとめて担保にして、運転資金を確保するのが一般的です。日本でも今回の改正で一応、そういうファイナンスのやり方が可能になるのです。

 

田中丸 銀行の立場からすると、これまでの債権法では、集合債権譲渡担保はある種、違法性のリスクをはらんだ契約でした。ところが新しい債権法では、譲渡禁止特約(譲渡制限特約)があっても、強行法的に債権譲渡が認められるので、コンプライアンス上の問題が生じません。これは大きいといえます。

 

むしろ必要なのは、中小企業のマインドセットの変更です。集合債権譲渡担保で融資を受けられる、融資を受けていいのだというふうに、考え方が変わらないといけません。このあたりをどのように推進するかが課題でしょう。

 

小倉 中小企業の経営者や財務担当者は、法律の改正をいちいちフォローしているわけではないので、結局、金融機関が教えてあげるしかないのではないでしょうか。例えば、地域密着の信用金庫が取引先に「今度から売掛金を担保にして融資できるようになったので活用したらどうですか」と提案してまわるのです。

 

田中丸 金融機関にとっても、融資がやりやすいはずです。不動産を担保にすると安心かもしれませんが、実際には一筆一筆評価しないといけない。それに比べて、売掛金なら現金が入ってくるので評価は不要、あとは掛け目の問題だけです。しかも、集合債権譲渡担保にすれば契約は一本で済みます。債務者(発注者)の承諾もいりません。

 

取材・文/古井一匡 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2018年3月28日に収録したものです。