「変わりないよ」「元気でやってるよ」電話口で聞こえる親の元気な声をつい過信していないでしょうか。しかし、その言葉の裏で、孤独や心身の衰えが静かに進行しているケースは少なくありません。本記事ではAさんの事例とともに、避けては通れない「親の老い」という現実について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
お盆帰省で生きた心地がしませんでした…年金15万円の73歳母の通帳「お支払い金額 ¥5,000,000」に震撼。45歳息子が気づいた、母を追い込んだ“犯人”のまさかの正体【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

一人暮らしの母親に起きた異変

いまから2年ほど前、新型コロナウイルスが収まってきたころの話です。

 

45歳のAさんは関東地区のメーカー企業に勤務する課長職のサラリーマン。高校生の一人息子とパート勤めの妻と3人で、勤務先から車で30分ほどのところの戸建て住宅に住んでいます。

 

Aさんの実家は日本海に面した地域にあり、新型コロナウイルスの流行のため、3年ほどは帰省することができずにいました。Aさんの父親は4年前に他界。実家には73歳の母親が一人で住んでいます。

 

母親は中学校の教師をしていたためか、優しく穏やかな雰囲気ですが、実にしっかりした女性でした。「今年のお盆は久しぶりに母親の顔をみにいこう」と妻や子どもに声をかけますが、どちらも気のない返事。特に高校生になった息子は「バイトもあるし、友達と約束もあるから僕はいいや」と3年前とは全然違う態度です。

 

Aさんには3歳年下の弟Bさんがいますが、海外赴任で実家には長年帰省しておらず、母親が心配なAさんは一人で帰省することにしました。

 

「時間が止まっているようで落ち着くなぁ」

 

電車やバスを乗り継いで到着した実家のある田舎は3年前とまったく変わらない風景でした。しかし、実家に到着したAさんを待っていたのは3年前とは違った様子の母親だったのです。

 

Aさんの姿を見るなり、一瞬不思議そうな顔をして「あれ? Bか?」と海外にいる弟の名前を発したのです。「母さん、嫌だな、僕だよ。昨日も電話で話したじゃないか」というと「あぁ、そうかい?」と3年ぶりに会ったのに拍子抜けするばかりです。

 

それにもましてAさんを驚かせたのは、家の中の様子でした。しばらく掃除をした様子もなく、台所も洗い物が溜まっています。数日前から帰省することは伝えてあり、母親はいつものようにAさんの好きな手料理を作って待っていてくれているものと思い込んでいたのです。