薬局のPOPに書かれていたこと
事業定義を変えるためには、「顧客は何を買っているのか?」という問いに向き合う必要があります。企業側は、顧客が自社の商品やサービス、技術、ノウハウを買っていると思っています。しかし、顧客にとってそれらは自分が豊かになるための手段であり、本当に欲しいものは「自分の成功」です。
5年ほど前、私は重要な仕事がある日に風邪を引いてしまいました。病院に行く時間がなかったため、薬局で風邪薬を買うことにしました。薬局に行くとPOP(商品の特徴などが書かれたカード)が商品に付けられています。そこには通常、薬の成分や用法など「モノ」の説明が書かれています。
私が行った薬局のPOPにはこんな文言が書かれていました。
「眠くなりづらい風邪薬 今日1日を乗り切れます!」
私は迷わずその風邪薬をレジに持っていきました。私が手に入れたかったのは、「重要な仕事を乗り切る」という「コト」であり、風邪薬は、そのための手段なのです。そのPOPには、「人」…なりたい私の姿が書かれていたのです。
人に焦点を当てると、ビジネスが進化・変容する可能性があります。顧客が手にしたい「コト」をより充実させるための商品・サービスのラインナップが加わり、業態が変わるからです。
思考手順は次の通りです。
1.商品、サービス、人材、技術、ノウハウなど、今ある経営資源を洗い出す。
2.その経営資源により、既存客が手にしている「コト」を明確にし、それがより充実するように経営資源を磨く。あるいは新たな商品・サービスを付け足す。
3.自社の経営資源を応用した新しい分野を開拓する。
私の知り合いに「2」を行った企業があります。弁護士、司法書士、税理士などと提携して、円満かつ税制的に有利な相続対策サービスを扱っている企業です。
同社では、顧客が望む「コト」を徹底的に考えた結果、相続は手段であり、本当に顧客が欲しいのは、「余生を大切な人と豊かに暮らすこと」と定めました。
そう定義づけをしたことにより提案の質が変わりました。また、旅行会社と提携して「会いたい人に会いに行く旅」や、自叙伝の作成サービスなどのサービスが発案されました。
「相続サービスを扱っている企業」から、「充実した余生を創造する企業」に変容したのです。
富士フイルムは「3」を行いました。デジタル化によってフィルム事業が縮小する中、これまでに培った酸化防止の技術を応用し、お肌の老化防止に効果がある基礎化粧品を開発しました。
成熟社会にあり、ビジネスの形を変える必要性に迫られている企業が多くあります。事業定義を変え、現業を守りながら変容することができれば、イノベーティブな人材の定着を高め、安全にイノベーションを加速させることができるでしょう。
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