いわゆる「ホワイト企業」を辞めていく優秀な若手社員
昨年、とある大手企業から講演を依頼されました。講演後の懇親会で、経営層の方とざっくばらんにお話をする中で、とても気になる話を聞きました。
その企業は、業界の老舗で、平均年収は600万円以上、休日は多く、残業は少なく、更に福利厚生も充実している、いわゆる「ホワイト企業」です。それにもかかわらず、優秀な若手が数年で辞めてしまうというのです。
新入社員の30%が、3年で退職する時代ですので、特に驚きはしませんでしたが、私が気になったのは「ヤル気が高い社員ほど、積極的に辞めていく」ということです。経営層も強い危機感を抱いていました。
これは、この会社だけの問題ではありません。働きやすく高待遇なのに、優秀な社員から見限られる企業が増えているのです。
こうした現象から、成熟社会に身を置く企業が抱える課題が浮き彫りになります。
イノベーティブな人材ほど離脱していく
こうした現象から浮き彫りになるのは、「変わるべき時期に変われない」企業の実態です。
ビジネスには、新しいモノやコトを生み出す「イノベーションのフェーズ」と、生み出されたものを上手に運営する「オペレーションのフェーズ」があります。
ビジネスには寿命があります。どんなビジネスも、やがて衰退する宿命を負っています。そこで、衰退期に入る手前で再びイノベーションのフェーズに入り、ビジネスを変容させる必要があります。企業は、イノベーションとオペレーションを繰り返しながら進化・変容していくのです。
冒頭で紹介した会社の、賃金や福利厚生といった待遇が良いのは、実りの多い成熟期「オペレーションのフェーズ」にいるからだと考えられます。
しかし、それを満喫している暇はなく、今のうちに次なるイノベーションの準備をしなければなりません。それをしないと、先見性のあるイノベーティブな人材ほど会社の将来に不安を覚え辞めてしまいます。
厚生労働省の調査「転職者実態調査の概況」の2023年版によると、転職者が前職を辞めた理由の、男性の回答のトップは「会社の将来に不安を感じたから」でした。成熟化が進む社会にあり、変容を求められているにも関わらず、対応が後手に回っている会社に危機感を覚えた人がドロップアウトしていると推測します。
次なるイノベーションに必要な先進的な人材が抜けてしまうのですから、企業にとって大きな損失です。
今、多くの企業に、大なり小なりイノベーションが求められています。しかし、経営者であれば、それが口で言うほど簡単ではないことを身に沁みて感じていると思います。イノベーションを起こすような新技術など、ほとんどの企業は持ち合わせていません。
社員の雇用など守るものがありますので、現業を守りながらの変容が求められます。新聞屋さんが突然、飲み屋になるというような大冒険は危険です。ある意味、ゼロからの起業よりも難易度が高いのかもしれません。
こうなると「ウチには到底無理だ」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。自社の経営資源を活用することで変容する堅実な方法があるのです。
私が23年間、社長を務めた新聞販売店で実践してきて、私の経営支援先の企業で効果を上げている方法があります。それは「事業定義を変える」ということです。