肥満に起因する経済損失は世界で約294兆円
McKinsey Global Instituteの試算によると、肥満に起因する経済的損失は世界で毎年2兆ドル(日本円に換算すると294兆円、1ドル=147円で計算)に及びます。注4さらに、この論文では「肥満の有病率の増加率がこのままつづけば、2030年までに世界の成人人口のほぼ半数が過体重または肥満になる」と述べられています。
特に、今後肥満が増えていくとされているのは新興国です。中国やインドといった多くの人口を抱える新興国では肥満が進んでおり、肥満薬の需要はこれからも伸び続けるといえるでしょう。
これからの産業医の役割
現代は少子高齢化、労働人口の減少に加えて、人生100年時代を迎え「長く健康に働くこと」や「幸福に社会参加すること」に価値が見出されるようになりました。がんを中心とした病気の治療と仕事の両立支援、さらにメンタル支援が、産業医の役割として今後は重要になってくると思います。
生活習慣病対策に関しては、これまで一定の効果を出してきた一方で、今後も産業保健の土台として対策が必要なことは、変わりはありません。
肥満を「病気」と捉えない日本人へ産業医がアドバイス
産業医をするなかで私が長年課題に思っていたのは、肥満を「病気」だと捉えておらず、特段の治療を行っていない方が多いことです。
風邪を引けば医者に行って薬を飲むと思いますが、肥満だからといって「薬をもらおう」と医者にかかる人は少ないと思います。おそらく医者にいくよりも、近所のジムに通うかどうか……と考えるのではないでしょうか。
こうした現状に、産業医としては「肥満は医師とともに治療すべきものである」という認識をもっと多くの方にもっていただきたいと思っております。
確かに、これまでは肥満を解消する画期的な治療薬がなく、食事療法と運動療法が主流でした。しかし、現在は肥満症薬が続々と発売され、治療方法の選択肢は増えたました。日本国内における肥満症薬発売のニュースが、「肥満は治療すべきもの」という意識転換を促すことを期待しています。
もちろん、これら肥満薬には利用にあたってさまざまな条件があり、副作用も課題にあがっています。自己判断で服用せず、医師や薬局の薬剤師等、専門家を積極的に頼っていただきたいです。
まとめ
本稿では、肥満薬の相次ぐ発売、製薬メーカーの株価上昇、などについて解説しました。
ぜひ、読者のみなさまには、元気でいきいき働くために、「病院は具合が悪くなってからいくところ」ではなく「元気なときこそ病院を積極的に活用する」という側面も見直していただきたいと考えます。
老後の資金を懸命に貯めることも大事ですが、60代以降でも稼げる心身状態を保つことも、お金と同じように大切なのではないでしょうか。
注1:「ノボノルディスクが肥満症薬発売、不適切利用の防止策も」日本経済新聞
注2:「市販薬で肥満対策、日本でも 大正製薬「アライ」発売」日本経済新聞
注3:「イーライ・リリー、肥満症薬で増収増益 株価1年で2倍に 北米」日本経済新聞
注5:Gastroenterology Antidiabetic Therapies Affect Risk of Pancreatic Cancer
吉田 健一
産業医/精神科医
株式会社フェアワーク
代表取締役会⻑
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