(※画像はイメージです/PIXTA)

2023年5月17日に首相官邸で開催された「こども未来戦略会議」(議長:岸田文雄首相)の3回目の会合で、2024年度以降の「異次元の少子化対策」についての議論が行われました。政府の叩き台には「児童手当」の「所得制限の撤廃」が盛り込まれましたが、財源の問題に関連して経済界から異論が出ており、前途は多難です。児童手当の所得制限の現状とその問題点について、改めて解説します。

児童手当の所得制限の2つの問題点

児童手当の所得制限に関しては、従前から、2つの問題点が指摘されてきています。

 

1. 所得制限を設けること自体が児童手当の制度趣旨に反している

2. 「世帯主」の所得を基準とするのは不公平・不合理である

 

◆所得制限を設けること自体が児童手当の制度趣旨に反している

第一に、所得制限を設けること自体が児童手当の制度趣旨に反しているという指摘です。

 

児童手当の制度趣旨は「子育て支援」にあります。

 

この趣旨は、所得の額にかかわらず、すべての子育てをする世帯に等しくあてはまるものであり、そもそも所得制限になじまないものだということです。

 

実際、「低所得世帯」のためには、児童手当とは別の制度として、学用品等の購入費用に関する「就学援助」等の制度が設けられています。

 

また、この他にも、生活保護をはじめとして、「救貧」「防貧」の制度があります。「所得の再分配」や「格差解消」「救貧」の問題は、本来、社会保障政策の枠内で解決すべき問題であるというのです。

 

このことを考慮すると、所得制限を設け、それを超えた世帯を「子育て支援」の対象から除外することは、合理性に疑問があり、かえって不公平であるとの指摘が考えられます。

 

◆「世帯主」の所得を基準とするのは不公平・不合理である

第二に、「世帯主」の所得金額を基準としていることについても、不公平・不合理であるとの指摘があります。

 

子育ては世帯ごとに一体となって行うべきものです。また、子育てをする世帯のうち圧倒的に多いのは「共働きの夫婦と子ども」の世帯です。それなのに、「世帯主」の所得を基準にすることは、古色蒼然とした家父長主義の名残りではないかとの批判があります。

 

その不合理は、「世帯主と配偶者、小学生の子2人」の世帯で、以下の2つの異なるケースを比較すると明らかです。

 

・ケース1:世帯主の年収が1,200万円、配偶者(扶養)の年収が103万円の世帯(世帯年収1,303万円)

・ケース2:世帯主と配偶者の年収が900万円ずつの世帯(世帯年収1,800万円)

 

ケース1については、【図表2】の「所得制限限度額736万円・収入額の目安960万円」が適用されます。

 

「世帯主」の収入額が1,200万円なので「所得制限限度額」を上回っていて、児童手当を受け取れないばかりか、「所得制限上限額」も超えているので月5,000円の「特例給付」も対象外です。

 

これに対し、ケース2は、【図表2】の「所得制限限度額698万円・収入額の目安917.8万円」が適用されます。

 

「世帯主」の収入額が900万円なので「所得制限限度額」を下回っており、児童手当を2名分(月額合計2万円)受け取ることができます。

 

ケース2の世帯の方がケース1の世帯よりも世帯年収が高いのに、ケース1では児童手当を1円も受け取れず、ケース2では2万円を受け取れてしまうということです。

 

これは不公平といわざるを得ません。

 

児童手当の所得制限の撤廃については、経済界をはじめとして、財源確保の困難性等を理由に疑問が出ています。しかし、児童手当の制度を国の制度として設けている以上、それが不公平・不公正な形で運営されるのは、好ましい事態ではなく、是正が求められているといえます。

 

「異次元の少子化対策」には、このほかにも、労働者が子育てと仕事を無理なく両立できる環境の整備、高騰する学費の負担軽減等、様々な問題が山積しています。国会・政府には納得のいく制度設計に努めることが求められると同時に、私たち国民にも、子育ての負担を公平に分担していくということへの覚悟が求められています。

 

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