2005年~2017年、洪水リスクで8の沿岸州の住宅資産価値は141億ドルを損失
独自の洪水リスク分析ツールを利用し、ファースト・ストリート基金(First Street Foundation)*5が2018年に発表した報告によると、8つの沿岸州の82万物件の住宅資産価値は合わせて2005年以降、141億ドルも減少したという*6。
同研究チームは、920万件を超える取引データを分析し、その結果に基づき、米国沿岸部のニューヨーク、ニュージャージー、コネチカット、フロリダ、ジョージア、サウスカロライナ、ノースカロライナ、バージニアのほぼすべての沿岸地域をカバーする約2千万物件に拡大分析を行い、直接的な住宅敷地の浸水に加えて、近隣道路の浸水も住宅価値に大きな影響を与えることを発見し、海面上昇が住宅の資産価値に与える影響を評価する指標を提示した。
なお、住宅価格は景気や社会情勢、建材コスト、所在地域そのもののイメージなどにも影響され、すべての要素を完全にコントロールすることは難しい。上記の先行研究は特定の地域における立地と住宅価格の相関関係を示している可能性がある。例えば、ニューヨーク市立大学の研究者は、現在及び将来の洪水に対する認識によって、ニューヨーク広域圏の住宅価格が大幅に低下すると主張している*7ものの、依然としてニューヨークは世界で有数の不動産価格が高い都市として知られている。
しかしながら、これらの先行研究は、消費者が浸水リスクに関して潜在的な選択を行っていることを示唆した。今後、気候変動問題が進み海面上昇リスクが加速すれば、こうした消費者の選択はより強くなり、対策がとられている地域や物件と無策の場合には価格等における格差がより強く顕在化するだろう。
*1:国際連合広報センターより、2023年4月26日アクセス。
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/climate_change_un/climate_change_effects/
*2:Zillowは米国においてオンライン不動産データベースを運営する企業である。
*3:Bernstein, A., Gustafson, M. T., & Lewis, R. (2019). Disaster on the horizon: The price effect of sea level rise. Journal of financial economics, 134(2), 253-272.
及び、清水勇蔵・馬場弘樹(2021)「気候変動と不動産取引 ― 不動産価格に対する洪水のインパクト」日本不動産学会誌/Vol.35 No.1・2021.6
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jares/35/1/35_112/_pdf
*4:Keenan, J. M., Hill, T., & Gumber, A. (2018). Climate gentrification: from theory to empiricism in Miami-Dade County, Florida. Environmental Research Letters, 13(5), 054001.
*5:ファースト・ストリート基金(First Street Foundation)は、連邦住宅抵当公庫(Fannie Mae)、連邦住宅金融庁などとも協働して、気候変動問題、特に洪水リスクの分析研究に重点を置いた非営利組織である。
*6:First Street Foundation (2018) As the seas have been rising, Tri-State home values have been sinking. 2023年4月26日アクセス。
https://assets.floodiq.com/2018/08/17ae78f7df2f7fd3176e3f63aac94e20-As-the-seas-have-been-rising-Tri-State-home-values-have-been-sinking.pdf<
*7:Ortega, F., & Taṣpınar, S. (2018). Rising sea levels and sinking property values: Hurricane Sandy and New York’s housing market. Journal of Urban Economics, 106, 81-100.
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