(写真はイメージです/PIXTA)

大阪のオフィス市場は、昨年、過去10年で2番目に大きい約5万坪の大量供給があった一方で、空室率の上昇は小幅に留まり、成約賃料は前年と同水準を維持しました。ニッセイ基礎研究所吉田資氏は、大阪のオフィス市況を概観した上で2027年までの賃料予測を行いました。みていきましょう。

3.大阪オフィス市場の見通し

3-1.新規需要の見通し

(1)オフィスワーカーの見通し

2022年の大阪府の就業者数は465.2万人(前年比+5.7万人)となり、2年ぶりに増加に転じた(図表11・左図)

 

大阪都心6区のオフィスワーカー*3を産業別にみると、「情報通信業(IT)」の占める割合が16%で最も大きい。次いで「卸売業,小売業(14%)」、プロフェッショナルサービスが含まれる「学術研究,専門・技術サービス業(12%)」、「製造業(9%)」、「金融業(8%)」の順となっている。区別にみると、中央区では「金融業」、北区では「情報通信業」、西区と福島区では「卸売業,小売業」の割合が大きい(図表12)

 

産業別に就業者数の増減推移をみると(2008年=100)、「情報通信業(176.1)」が大幅に増加する一方、「製造業(90.6)」、「金融業,保険業(93.3)」、「卸売業、小売業(103.1)」、「学術研究,専門・技術サービス業(112.5)」の伸び率は全体平均(112.9)を下回っている(図表11・右図)

 

【図表11】
【図表11】
【図表12】
【図表12】

 

 

次に、大阪のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「近畿地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認する。

 

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「非製造業」の「企業の景況判断BSI*4」(近畿地方)は、コロナ禍の影響により2020年第2四半期に「▲51.9」と一気に悪化した後、回復と悪化を繰り返し、一進一退の動きとなっている。2022年第4四半期は「+5.3」となった(図表13)

 

一方、「非製造業の従業員数判断BSI*5」(近畿地方)は、「+25.5」(2020年第1四半期)から「+2.7」(同第4四半期)へ大幅に低下した後、足もとでは「+18.6」まで回復している(図表14)。しかし、「全国平均」の動きと比較した場合、近畿地方の回復ペースは鈍い傾向にある。

 

【図表13】【図表14】
【図表13】【図表14】

 

大阪府の就業者数は2年ぶりに増加に転じた。一方、産業別に就業者数の増減をみると、「情報通信業」は大幅に増加しているものの、その他の産業では頭打ちとなっている。

 

また、近畿地方の「企業の経営環境」は一進一退を繰り返しており、「雇用環境」はコロナ禍からの回復ペースが鈍い。以上のことを鑑みると、今後のオフィスワーカー数の増加は力強さに欠くことが予想される。

 

*3:従業地による職業別就業者のうち、専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者の合計。

*4:企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感が悪いことを示す。

*5:従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。

 

(2)在宅勤務の進展に伴うワークプレイスの見直し

大阪市・公益財団法人大阪産業局「新型コロナウィルス感染症による企業活動への影響に関する調査」によれば、在宅勤務(テレワーク)を「実施中・実施済」との回答割合は、概ね3割から4割の範囲で推移しており、2022年12月調査では34%となった(図表15)。大阪市においても、「在宅勤務」を取り入れた働き方が一定程度定着している模様である。

 

【図表15】
【図表15】

 

また、大阪府商工労働部・政策企画部「2022年度大阪府内企業経営実態調査」(2022年11月調査)によれば、大阪府のテレワーク導入率は28%で、産業別では、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業(82%)」や「金融業、保険業(55%)」、「学術研究、専門・技術サービス業(48%)」において高い傾向にある(図表16)

 

こうしたなか、大阪市でもワークプレイスの見直しを検討する企業が増え始めている。ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査」によれば、「ワークプレイス戦略の見直しの着手状況」に関して、「既に着手している」との回答は2021年の10%から2022年の17%へ増加した。着手予定を含めると全体で5割を超える(図表17)。今後、大阪でもワークプレイスの見直しが更に進むことが予想され、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。

 

【図表16】【図表17】
【図表16】【図表17】

 

(3)大型イベント開催(大阪・関西万博)の経済波及効果への期待

2025年開催予定の大阪万博による経済効果への期待は大きい。関西生産性本部「第35回KPC定期調査結果」によれば、大阪万博に「非常に関心がある」と「関心がある」との回答は、合計で8割を超えた。また、大阪シティ信用金庫「中小企業における大阪・関西万博に関する意識調査」(2022年7月)によれば、経営にプラスの影響があると回答した企業は66%に達した。万博をビジネス拡大の機会と捉える企業は多い。

 

また、上記の関西生産性本部の調査において、万博への期待に関して、「国内外の観光客の増加による関西経済の活性化を期待する」(40%)との回答が最も多く、次いで、「未来社会の実験場として、最先端の技術・知見を提供することが重要である」(35%)との回答が多かった。

 

万博では、新技術・サービスの導入が計画されており、その1つとして、会場内と周辺地域を結ぶ交通手段として、「空飛ぶクルマ」の導入が挙げられる。1時間20便程度の運行を目指すとしており、会場である夢洲と、(1)大阪市内、(2)大阪湾岸部、(3)伊丹空港、(4)神戸空港、(5)関西国際空港、(6)神戸市内、(7)淡路島、(8)京都・伊勢志摩等をそれぞれ結ぶ8ルートが、候補となっている*6。今年3月には、淀川上空で無人飛行試験が行われた*7

 

アジア太平洋研究所「関西経済白書2022」によれば、万博の経済波及効果は2兆5,276億円で、このうち、大阪府への波及効果は1兆8,496億円と試算されている(図表18)。オフィス需要に対してもプラスの効果が期待できそうだ。

 

【図表18】
【図表18】

 

一方、大阪府と大阪市が2022年12月に行ったアンケート調査によれば、大阪・関西万博に「行きたい」または「どちらかといえば行きたい」と答えた人は全体で41.2%(前年比▲10.7%)、大阪府内では46.3%(同▲11.8%)、府外では30.9%(同▲8.7%)となり、前年から低下した*8

 

また、万博の会場整備に関して、2023年2月に行われた約2千席の劇場ホール「大催事場」の建設工事入札では、予定価格内での応札がなく不成立との報道があった。万博協会は資材価格・人件費の高騰などが要因としている*9。想定よりも、来場者が大幅に下回る、あるいは会場建設費が大幅に上回る場合、上記の経済波及効果が未達となる懸念もあり、今後の動向を注視したい。

 

*6:日本経済新聞「空飛ぶクルマ、大阪万博で8路線・1時間20便初の実用化」2022/3/17

*7:日本経済新聞「空飛ぶクルマ、大阪府で試験」2023/3/3

*8:産経新聞「大阪・関西万博の「期待値」なぜ下がる?ミャクミャク様も困惑する衝撃アンケート」2023/2/20

*9:産経新聞「万博「大催事場」また入札不成立建設コスト見直しへ」2023/2/11

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年3月10日に公開したレポートを転載したものです。

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