(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の経営者は、「人手不足だ」と言いながらも、賃金を上げるどころか、下げることに熱心だったりします。人手不足なら他社よりも高い賃金を払って確保すべきなのに、それをやらない。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

アベノミクスの脱デフレは道半ばに終わる

■なぜ日銀は持論を引っ込めたのか

 

2013年1月22日付で、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」という政府と日銀の「共同声明」が出されました。ここで、「物価安定の目標」が消費者物価の前年比上昇率「2パーセント」と定められました。

 

このときの首相は安倍晋三氏で、日銀総裁が白川方明氏です。白川氏は2013年3月に辞任すると、9月には青山学院大学国際政治経済学部特任教授に就任しています。

 

金融政策で物価を押し上げることはできないという、白川氏の日銀理論から言えば、2パーセントの物価目標達成に日銀が責任を負うというのは矛盾します。それでも受け入れたのは、白川氏が総裁続投を狙って安倍政権にとり入ろうとしたからだと思います。

 

2008年に、白川氏は日銀副総裁に就任します。それと時を同じくして、福井俊彦総裁が辞任することになっていました。ところが、政府が後継者候補を国会に提示したところ、参議院で否決されてしまいます。そのままでは総裁不在になってしまうので、福井氏が白川氏を「次期日銀総裁が就任するまでのあいだ、総裁の職務を代行する者」に指名します。

 

これによって白川氏は、副総裁就任と同時に日銀総裁職務代行者となります。そして2008年4月9日、第30代日銀総裁に就任しました。

 

日銀総裁の任期は5年で、2013年4月8日には任期切れになるはずでした。つまり政府日銀共同声明は、白川氏の任期切れ直前に出されたことになります。

 

日銀総裁は二期務めるのが理想とされており、白川氏も二期目をめざしていました。だから持論を棚上げして2パーセント目標を受け入れた。

 

しかし、白川氏は一期目の任期満了を待たず、2月5日に辞職表明しました。安倍氏は白川氏の二期目を認めず、リフレ派で日銀理論を早くから否定してきた岩田規久男学習院大学教授を総裁に任命しようとしていたのです。

 

その当時、筆者は岩田氏に会って「日銀総裁に指名されますよ」と探りを入れたら、「いや私は副総裁のほうがよい」と打ち明けたのです。総裁職は財務省や官邸、国会との意見調整をこなさねばなりませんが、それが面倒だったようです。

 

安倍氏はそれを聞いて、総裁には元財務官の黒田東彦氏を総裁に任命しました。黒田氏はアジア開発銀行総裁を務めた国際派で理論家でもありますが、なにせ財務省出身で、均衡財政と消費税増税の省是には忠実です。

 

財政拡張と金融緩和の両輪をフル回転すべきだと、リーマン・ショック当時から主張してきた筆者としては、「大丈夫かな」と思ったものでした。

 

黒田総裁は脱デフレをめざすアベノミクスの第一の矢である異次元金融緩和を打ち出すのですが、2023年3月の任期満了までの脱デフレは、道半ばに終わりそうです。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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