(写真はイメージです/PIXTA)

ウクライナへの軍事侵攻から1年。世界経済は減速し、グローバルな供給網の再編圧力は強まっています。ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり氏によるレポートです。

加速し複雑化する供給網を巡る駆け引き

規制や補助金によるグローバル経済の断片化は、効率性の低下、コスト高につながる。ごく限定した範囲に留めることが理想だ。欧米の当局者間では、TTCの半導体供給網に関わる合意や「グリーンディール産業計画」の政策文書に見て取れるように、パートナー国間の補助金競争は回避すべきという思いは基本的に共有されているようだ。

 

他方、中国との対抗のためには、中国が活用してきた規制と大規模な補助金の活用を排除できない事情もある。さらに、それぞれ、国内・域内に、グローバル化の負の影響を受けた地域や人々を抱え、戦略産業の投資誘致、雇用拡大への取り組みが期待される政治的な事情を抱える。供給網が混乱したコロナ禍の経験もある。米国のイエレン財務長官が提唱する同盟国・同志国による「フレンドショアリング」は半導体などの緊急時の相互融通などの仕組みとしては機能するとしても、産業政策は、国内回帰「リショアリング」や隣接する地域での供給網構築「ニアショアリング」に傾きやすい。

 

しかし、補助金を活用した産業政策が、期待通り実行され、成果を上げるかも不確かだ。コロナ禍からの回復過程では人手不足が深刻な問題となっている。原材料の価格上昇もある。そもそもEUの場合、本稿執筆時点で、「半導体法」は未成立で投資競争での出遅れが心配されている。「グリーンディール産業計画」も、必ずしも広く加盟国の支持を得ている訳ではない。計画は、単一市場の分断を回避し、共通の対応を追求する狙いがあるが、補助金規制の緩和に対して、中小国は、独仏の二大国の優位が固定化するとの懸念を抱く。「欧州主権基金」を巡っても、コロナ禍からの復興基金「次世代EU」が稼働していることもあり、補助金の効果に懐疑的で財政の健全性を重視する国々は、反対の立場を取ると見られる。

 

ウクライナ侵攻から1年で、規制の強化、パートナー国間の協力の枠組みの深化、デジタルやクリーン技術を巡る研究や投資支援のための補助金を巡る競争など供給網の再編につながる動きは加速した。企業活動の厚みもあり、米欧間では深い協力が可能だが、競合する関係でもある。

 

供給網再編と戦略産業の投資誘致を巡る競争は、民主主義対権威主義という単純な図式には収まらない複雑な様相を呈している。

 

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年2月28日に公開したレポートを転載したものです。

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