映画『マトリクス』『トゥルーマン・ショー』が90年代に既に“現在の私たち”に突き付けていた「恐るべき問い」とは

映画『マトリクス』『トゥルーマン・ショー』が90年代に既に“現在の私たち”に突き付けていた「恐るべき問い」とは
(※写真はイメージです/PIXTA)

ITの急速な発展と普及により、私たちの生活は格段に便利になりました。一方、以前はなかった様々な問題が噴出しています。興味深いことに、1990年代のアメリカ映画には、あたかも今日の状況を既に予見していたかのような作品がみられます。NHKエンタープライズ エグゼクティブプロデューサーの丸山俊一氏が著書「アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望」(祥伝社)より解説します。

アメリカの歴史における「90年代」の終わりとは

『トゥルーマン・ショー』公開の翌99年、現実と夢の見境がなくなったかのような痛ましい事件が起きる。コロンバイン高校で学生が同級生ら13名を射殺し、全米を震え上がらせた。世界に敵なしとなったはずの冷戦後のアメリカ。

 

しかし代わりに、自らの心の内側に、新たな敵が芽生えつつあったのか? 次第にコントロールを失っていく超大国の不安は、過去のものではないとシュルマン、アンダーセンの2人は口を揃える。

 

【シュルマン】

「アメリカの歴史で1990年代はいつ終わったのか? と問う時、それにはっきりと答えることは難しいと感じています。2001年9月11日に終わったと明言した時も以前ありましたが、今では本当に90年代は終わったのか確信が揺らいでいます。

 

経済の世界同時不況の影響の大きさや暮らしに浸透したスマートフォン、ソーシャルメディアなどが人々の生活にいかに深く結びついているか。その文化的、経済的、社会的な影響は9・11のエポックよりももっと長く切れ目のない波かもしれないのです」

 

【アンダーセン】

「90年代以降現在にいたるまでは『誰もが揃って見るもの』がどんどん少なくなってきた時代です。いわば文化は分断されたのです。100万人が好きなものと100万人が好きなものとに分断されたのです。

 

全員に受け入れられるものは急速に減っていく一方です。皆が同じものを見て同じことを考える。今となっては懐かしい時代の話ですね。90年代とは私にとって文化的に本当に新しいことが起きた最後の時代でした」

 

ITが経済を牽引した90年代、ネットが世界をつなぐ万能感に人々は夢を見た。グローバル化は世界をつなげ、イデオロギー対立の影は薄まり、より良くするだろう。だが、地球上を市場とデジタルの網の目が覆うかのような大量消費社会がもたらした豊かさによって、世界は本当に良くなったのだろうか。

 

90年代の人々の心を象徴するようなシーンが、20世紀最後の年に公開された映画『キャスト・アウェイ4』(2000)にある。

※4『キャスト・アウェイ』(Cast Away) 2000年 監督:ロバート・ゼメキス 出演:トム・ハンクス、ヘレン・ハント ▶運送業界で働くチャック・ノーランドは、出張のために乗った飛行機が何らかの原因で大破し、墜落。無人島へ流れ着く。目覚めた彼は途方に暮れるが、次第に生活力を身につけ、バレーボールの「ウィルソン」を話し相手に何とか暮らしていく。4年が経ったある日、チャックはいかだを作って島から脱出することを試みる。

 

荷物を少しでも早く届ける1秒を争う競争の中にいたシステムエンジニアを乗せた飛行機が、太平洋で墜落。無人島に辿り着いた彼が、帰還するまでの4年間の物語だ。

 

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アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

丸山 俊一

祥伝社

欲望の正体を求めて。想像力の旅が始まる。 NHK「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」アメリカ編を 完全書籍化 番組では放送されなかったインタビューも収録 理想、喪失、そして分断 アメリカはどこへ行こうとしているの…

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