(写真はイメージです/PIXTA)

好調を継続する、東京の不動産市場。オフィス拡張移転DIを業種別・エリア別・ビルクラス別に分析した、ニッセイ基礎研究所の佐久間誠氏によるレポートです。

2―オフィス拡張意欲が改善するなか、回復ペースは業種・エリア・ビルクラス間で濃淡も

2022年上期は、オフィス拡張移転DIの緩やかな上昇が続き、オフィス拡張の動きは「点」から「面」へ広がりを見せた。2022年下期も拡張移転DIは回復基調を維持したが、回復ペースは業種やエリア、ビルクラス間で濃淡が見られる。以下では、東京都心部のオフィス拡張移転DIの推移を確認したのち、業種別・エリア別・ビルクラス別の順に分析する*4

 

*4:東京都心部は、東京都心5区主要オフィス街および周辺区オフィス集積地域(「五反田・大崎」「北品川・東品川」「湯島・本郷・後楽」「目黒区」)。詳細は、三幸エステート「オフィスレントデータ2023 資料編 東京都心部 A・B・Cクラスビル ガイドライン」を参照。

1.オフィス拡張移転DIは改善基調を維持

東京都心部のオフィス拡張移転DIは、オフィス市況が活況であった2019年は70%台で推移していた(図表2)。2018年以降、新築オフィスビルの大量供給が続いたが、企業の旺盛なオフィス需要が吸収し、空室率は2019年1月に初めて1%を下回り、その後もタイトな需給バランスが継続した。

 

2020年にコロナ危機が訪れると、オフィス拡張移転DIは69%(2020年第1四半期)から51%(第4四半期)へと急低下した。その後、空室率はやや遅れて上昇に転じ、2020年末に2.36%へ上昇した。

 

2021年に入り、オフィス拡張移転DIは51%~53%(第1四半期~第3四半期)と、企業の拡張・縮小意欲が拮抗する水準で横ばいとなった。オフィス拡張移転DIの低下に歯止めがかかったものの、オフィス床を解約する動きも多く、空室率は2021年第3四半期に4.48%(ボトム対比+3.69%)と大幅に上昇した。

 

その後、オフィス拡張移転DIは2021年第4四半期から上昇に転じ、2022年第3四半期は65%、第4四半期は64%となった。空室率は、新築ビルが空室を抱えて竣工したことに加えて依然として解約等の影響が大きく、2022年第3四半期は5.16%(ボトム対比+4.37%)となった。しかし、2022年下期は、オフィス拡張意欲の改善が続き、空室率の上昇にも一服感が見られ、オフィスビルの新規供給が限定的ななか、2023年1月の空室率は4.75%に低下した。

 

但し、オフィス拡張移転DIは依然としてコロナ禍前の水準に及ばず、第4四半期は前期比横ばいと改善ペースが鈍化した点に留意が必要であろう。

 

【図表2】
【図表2】

2.オフィス拡張意欲の回復ペースは業種間で濃淡も

コロナ禍が本格化した2020年上期以降、テレワーク活用に積極的な企業の多い業種を中心にオフィス戦略を見直す動きが顕在化し、オフィス拡張移転DIは低下した。2022年上期以降は、全体としてオフィス拡張意欲の回復が継続しているものの、回復ペースは業種間で濃淡が生じている。

 

コロナ禍における主要業種のオフィス拡張移転DIの推移を見ると、「学術研究・専門/技術サービス業」が2020年上期に43%(2019年下期81%)と急低下した(図表3)*5。続いて、「製造業」が2020年下期に38%(同60%)、「情報通信業」が2021年上期に36%(同86%)へ低下した。これらの業種は、コロナ禍においても業績が総じて底堅く推移したが、複数の企業がオフィス戦略を早々に見直して、縮小移転や解約などオフィス床を削減する方針を発表した。その他の主要業種では、「卸売業・小売業」が2020年下期に47%(同67%)、「その他サービス業」が2021年上期に46%(同60%)に低下したが、前述の3業種と比較すると、オフィス拡張移転DIの低下は小幅にとどまった。

 

【図表3】
【図表3】

 

2021年下期には、コロナ禍におけるデジタル化加速の恩恵を受けた「情報通信業」が上昇に転じ52%まで回復した。その後、2022年上期は、「製造業」が50%、「学術研究・専門/技術サービス業」が55%に上昇するなど、全ての業種で50%以上となった。

 

2022年下期は上昇基調が続き、「学術研究・専門/技術サービス業」が81%、「その他サービス業」が77%、「不動産業・物品賃貸業」が77%と、コロナ禍前の水準を回復した。一方、「製造業」は55%、「卸売業・小売業」は57%と回復の動きが鈍い。また、主要業種の中でいち早く底打ちした「情報通信業」は63%と、回復基調を維持するものの力強さに欠けている。

 

オフィス拡張移転DIの回復が遅れている、「製造業」・「卸売業・小売業」・「情報通信業」の3業種について、東京都の産業別就業者数の変化率(2020年→2021年→2022年)を確認すると、「製造業(▲2%→▲2%→▲7%)」と「卸売業・小売業(▲6%→▲2%→▲2%)」が減少する一方、「情報通信業(+5%→+10%→+23%)」は大幅に増加している(図表4)。このようにしてみると、オフィス拡張意欲が乏しい理由として、「製造業」・「卸売業・小売業」は就業者数の減少が、「情報通信業」はテレワークの積極的な活用などによりオフィス床面積の拡大を抑制している可能性が考えられる。

 

【図表4】
【図表4】

 

「情報通信業」について、オフィス移転件数における「拡張」・「同規模」・「縮小」の比率の推移(2022年上期→下期)を見ると、「拡張44%→50%」、「同規模24%→26%」、「縮小32%→24%」となった(図表5)。縮小移転の比率は2021年上期(52%)をピークに低下が続く。一方、拡張移転の比率は2021年下期からほぼ横ばいで、同規模移転の比率は2021年上期と並んで最高となった。つまり、「情報通信業」では、就業者数が増加しているため、縮小移転が増えているわけではないものの、事業拡大ペースに見合ったオフィス需要が顕在化せず、拡張移転も増えていないと言えそうだ。

 

【図表5】
【図表5】

 

オフィス移転件数における拡張比率を見ると、2022年下期は全ての主要業種で上昇した。拡張比率が高い順にその推移(2022年上期→下期)を見ると、「学術研究・専門/技術サービス業(33%→72%)」>「その他サービス業(50%→67%)」>「不動産業・物品賃貸業(42%→60%)」>「情報通信業(44%→50%)」>「製造業(32%→43%)」>「卸売業・小売業(24%→38%)」となった(図表6)。拡張比率の上昇には温度差があり、「学術研究・専門/技術サービス業」がコロナ禍前の水準を回復した一方、「情報通信業」は回復が遅れている。

 

【図表6】
【図表6】

 

主要業種のオフィス移転件数における縮小比率を見ると、2022年下期は「卸売業・小売業」と「製造業」を除く主要業種で低下した。縮小比率が低い順にその推移(2022年上期→下期)を確認すると、「不動産業・物品賃貸業(11%→7%)」<「学術研究・専門/技術サービス業(24%→11%)」<「その他サービス業(19%→13%)」<「情報通信業(32%→24%)」<「卸売業・小売業(24%→24%)」<「製造業(32%→33%)」となった(図表7)。就業者数が減少している「卸売業・小売業」と「製造業」では縮小移転が高止まりしている。

 

【図表7】
【図表7】

 

*5:業種別のオフィス拡張移転DIは、十分なデータ数を確保するため、東京都心部ではなく東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を対象とした。

 

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    ※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    ※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年2月21日に公開したレポートを転載したものです。
    ※本稿は三幸エステート「オフィス ユーザー レポート」を加筆・修正の上、転載したものである。

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