(※写真はイメージです/PIXTA)

一社員とは異なり、取締役は多くの権限を持つ一方で大きな責任も背負っています。任期途中で辞任するとなると、ステークホルダー等からの厳しい追及も想定しておく必要があります。実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、取締役の任期途中の辞任について、岡部宗茂弁護士に解説していただきました。

取締役の辞任を制限する特約の効力については争いあり

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役員委任契約書には「年度の途中において、自己都合により職務を放棄しないこと」と記載されているとのことですが、「年度」及び「職務放棄」の意味が必ずしも明確ではありません。したがって、任期中の辞任を制限することまで合意したものとはいえないと理解する余地もありますので、この点は交渉材料になると考えられます。

 

仮に、この特約条項が任期中の辞任を制限する趣旨であると理解する場合、取締役の任期中の辞任を制限する特約が有効かどうかについて、学説の考え方は分かれています。

 

下級審の裁判例などを交渉材料に

大まかに分けて、①特約は無効であり辞任は可能とする見解、②特約は有効であり辞任は認められないとする見解、③特約は有効だが辞任を制限する効力まではなく、辞任を申し出た場合は特約違反に基づく損害賠償責任が課せられるとする見解の三つに分かれていますが、この点について裁判で争われた先例は乏しく、実務上決着が付いていません(なお、理由の詳細は述べませんが、筆者としては③の見解が最も合理的と考えております)。

 

①特約は無効であり辞任は可能とする見解に立てば、役員委任契約書の特約条項には拘束されず、子会社の代表に対する辞任届の提出により辞任は可能ということになります。

 

この見解に立つ下級審裁判例もあります(大阪地裁昭和63年11月30日判決・判例時報1316号139頁)ので、今回のケースではこの裁判例を武器に親会社の代表に対する説得を試みることになるでしょう。

 

②特約は有効であり辞任は認められないとする見解に立つと、任期中の辞任は認められないことになります。

 

ただ、特約がある限りいかなる場合も辞任が認められないとする考え方はあまりに取締役にとって酷であるように筆者には思われますので、②の見解に立ちつつも、特約の柔軟な解釈によって辞任の効力自体は認めるという方向性もあり得るのではないかと思います。

 

例えば今回のケースの場合、病気療養等のやむを得ない理由がある場合には「自己都合による職務放棄」には当たらないといった柔軟な解釈の方向性もあり得るように思われますので、親会社の代表を説得する際には、不明確な特約の解釈についても交渉材料とすることができます。

 

③特約は有効だが辞任を制限する効力まではなく、辞任を申し出た場合は特約違反に基づく損害賠償責任が課せられるとする見解に立てば、辞任自体は可能であり、あとは損害賠償責任の問題となりますが、違約金の特約がない限り、辞任自体によって損害賠償責任が発生するというケースは稀ではないかと思われます。

 

なお、いずれの見解に立ったとしても、会社にとって「不利な時期」の辞任の場合は、別途、民法651条2項1号が規定する損害賠償責任の問題が残ります。

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