(※画像はイメージです/PIXTA)

回転寿司チェーン大手「スシロー」で、高校生の少年が醤油ボトル、湯呑み、寿司に唾液を付着させた事件について、関係者にどのような法的責任が問われるかが物議を醸しています。本記事では、一部始終を撮影していた「撮影者」について、道徳的責任はともかく、どのような法的責任が問われるのか、一切の感情を排し、現実の法律の規定および判例・学説を踏まえ、民事責任と刑事責任に分けて解説します。

「撮影者X」の刑事責任

次に、撮影者Xの刑事責任です。

 

実際に今回の事件が刑事裁判にまで持ち込まれるかどうかは別として、前述の通り、少年Aの行為は「威力業務妨害罪」(刑法234条)と「器物損壊罪」(刑法261条)に該当します。

 

これに対し、撮影者Xは、唾液をモノに付着させるという実行行為をみずから行っていません。したがって、問題となりうるのは、共犯(共同正犯(刑法60条)、教唆犯(刑法61条)、幇助犯(刑法62条))です。

 

共犯が成立するには、結果発生に対し、少なくとも心理面で因果的寄与を及ぼしていなければなりません。

 

本件の場合、前述のように、共謀が事前にあったと認定するのは困難であり、かつ、積極的に煽ってエスカレートさせたと認めるのも困難です。したがって、民事責任と同様、刑事責任を問うことも困難といわざるを得ません。

 

なお、この点について「止めなかったのが悪い」という意見もあるかと思われます。

 

たしかに、刑法理論上、「不作為犯」という犯罪形式があります。しかし、今回の事件の場合、不作為犯として罪に問うことは無理筋です。

 

どういうことかというと、威力業務妨害罪と器物損壊罪は、いずれも、条文上、「作為犯」つまり積極的な行為を行う形式の犯罪として規定されています。しかし、撮影者Xは何ら作為を行っていません。この場合、判例・学説は、犯罪が成立するためには前提として「作為義務」が認められなければならないということで一致しています(このような場合を「不真正不作為犯」といいます)。

 

「作為義務」は拘束力・強制力をもつ法的義務なので、容易には認められません。単に、悪事を見て止めなかった程度では、認められないのです。

 

以上、今回の事件においては、撮影者Xの法的責任を問うことは、民事上も刑事上も、著しく困難といわざるを得ません。

 

なお付言しますと、今回の事件につき、「見せしめのために厳罰を科するべきだ」などという言説や、現実の法律や事実を無視したかあるいは勘違いに基づくいわゆる「オレ様法律論」の類いが、「Yahoo!ニュース」のコメント欄のみならず、ネット上に溢れています。

 

しかし、日本は法治国家であり、かつ、民法上の「過失責任主義」、刑法上の「罪刑法定主義」はきわめて重いものです。ましてや、個人の偏見や感情や気分で人が処断されるようなことはあってはなりません。また、誰にも「私的制裁」をする権利はありません。

 

中世以前の魔女狩りやリンチを肯定するような思考や言動は、厳に慎みたいものです。

 

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