(写真はイメージです/PIXTA)

世界中の富裕層から“投資国”として人気の高いフィリピン。世界的にみて、コロナ禍からの回復に出遅れた感があるといわれていますが、どうなのでしょうか。今後のフィリピン経済の行方について、ニッセイ基礎研究所の斉藤 誠氏が解説します。

10~12月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済はコロナ禍からの経済回復が続いている。2022年の実質GDPは前年比+7.6%(2021年:同+5.7%)となり1976年以来となる高成長を記録、コロナ禍前(2019年)の水準を上回った。四半期ベースでみると、10~12月期の成長率は前年同期比+7.2%となり、7~9月期の同+7.6%から鈍化したものの、順調な成長が続いていることが明らかとなった。

 

10~12月期はコロナ禍が収束に向かうなかで、いわゆるリベンジ消費が続いており、GDPの約7割を占める民間消費が+7%成長を維持して景気の牽引役となった。マニラ首都圏では、昨年3月以降、新型コロナウイルス規制の基準が5段階で最も緩い「1」に引き下げられており、8月には全国の学校で対面授業を再開、9月には屋外のマスク着用義務を解除(10月に屋内の着用義務も解除)された。一連の行動制限の緩和によりコロナ前の生活に近づいていくなかで雇用環境が改善し、11月の失業率は4.2%とコロナ禍前の水準を下回るまで低下した。またペソ安を背景に海外就労者の送金額(ペソベース)が大きく増加(10~11月平均が同+20.5%)したことも消費の追い風となった。

 

財・サービス輸出(同+14.6%)も好調だった。輸出全体の4割を占めるサービス輸出(同+21.9%)は前期に続いて大幅に増加している。フィリピンでは今年2月以降、入国時の隔離や陰性証明書の提示を不要とするなど入国規制を段階的に緩和しており、12月の外国人観光客数は37万人(コロナ禍前の5割強の水準)まで回復(図表3)、インバウンド需要がサービス輸出を押し上げている。また財貨輸出(同+10.6%)も電子部品の出荷が伸びて二桁成長に加速した。

 

一方、投資は同+6.3%となり、前期の同+9.9%から増勢が鈍化した。消費需要やインバウンド需要の回復が企業の設備投資意欲を喚起しているものの、足元の世界経済の減速やフィリピン中央銀行の急激な利上げ(22年累計で+3.5%)の影響が広がり始めている(図表4)

 

【図表3】【図表4】
【図表3】【図表4】

 

このように10~12月期はコロナ禍からの経済の回復の勢いが強く、高めの成長率が続いたものの、経済成長を牽引する内需の勢いは弱まりつつある。フィリピンではエネルギーと食品価格の高騰やペソ安に伴う輸入インフレに起因した物価上昇が続いており、12月の消費者物価上昇率は前年同月比+8.1%に上昇(図表4)、中銀の物価目標である+2~4%を大幅に上回っている。

 

足元では対米ドルでのペソ安進行に歯止めが掛かり、近いうちにインフレはピークを迎えるものの、当面は高止まりするだろう。このためフィリピン中銀は年前半まで金融引き締めを継続(2月の会合では0.5%の追加利上げを予想)すると予想される。こうしたインフレの高止まりや借入コストの上昇により内需(消費・投資)は下押し圧力がかかる状況が続くだろう。さらに世界経済の減速により12月の輸出額(通関ベース)が前年同月比9.7%減と急減し、好調だった輸出に変調の動きが出始めている。

従って、先行きのフィリピン経済はリベンジ消費の勢いが弱まる一方、経済への逆風は続くとみられ成長ペースの鈍化は避けられないだろう。フィリピン政府の成長率予測(2023年:+6~7%)の達成は難しそうだ。もっとも、足元の中国経済の再開はフィリピンの財貨輸出やインバウンド需要の増加につながるため、景気は底堅さを維持するだろう。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年1月27日に公開したレポートを転載したものです。

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