(画像はイメージです/PIXTA)

相続の現場では、よくも悪くもいろんなことが巻き起こります。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

仏壇から見つかった亡き母の手紙

私は、一時的に仏壇を預かっているという次女の悦子さんの家へ行き、その仏壇を見せてもらいました。手作りのものとは思えないほど精巧に作られていて、とても驚いたことを覚えています。

 

仏壇を隅々まで確認していると、引き出しの奥に何かが落ちているのを見つけました。それは、ポチ袋に入れられた一通の手紙でした。

 

その手紙は亡くなったお母さんから三姉妹に宛てられたものだったのです。

 

後日、私は三姉妹とそれぞれの夫に集まってもらい、その手紙を披露しました。

 

お母さんは、娘たち一人一人に感謝の思いを綴り、三人がこれからも仲良く、助け合って暮らしていくことを願っていました。

 

「あなたたちが仲のよい姉妹でお父さんもお母さんも本当に幸せでした」

 

そして、手紙は遺品整理についての希望も記され、そこには自分が亡くなった後の仏壇の処遇についてもしっかりと記されていたのです。とても大切にしてきた仏壇だけれど、誰も引き継ぎたくなければ処分してほしいと……。

自分がみんなを困らせていたんだ…

手紙を読み終えたとき、幸子さんのご主人が「すみません」と、頭を下げました。

 

ご主人はこれまで、幸子さんからお母さんが仏壇を大切にしてきたことは聞かされていたものの、どうしても他家の仏壇を置くことに抵抗があったのだと言います。

 

「でも、こうしてお義母さんの思いがはっきりと残されていると、どれだけお義母さんがこの仏壇を大切にしてきたかがよくわかりました……」

 

ご主人は自分の頑なな思いが三姉妹を困らせていたのだと気づき、何よりお義母さんがずっと仏壇を守ってきた思いを知り、それを無にしてはいけないと思ったのだと言いました。

 

「お義姉さんたちの家と違って、うちには仏壇もありませんし、この仏壇は、うちで預からせてください」

 

その決断に、その場にいるみんなが賛同し、感謝の思いを伝えたのです。

 

その後、仏壇は幸子さんの家に置かれ、今では幸子さんが毎日、手を合わせているそうです。おかげで三姉妹の仲も良好のようです。亡くなったお母さんは、残した手紙で仏壇への自分の思いを綴りながら、誰も引き取らないのであれば、処分してもいいと記していました。

 

もし幸子さんのご主人が引き取ると言わずに、仏壇を処分することになっても、それはお母さんの思いに従うことになるので、誰の胸も痛まなかったのかもしれません。

 

ですが、仏壇への思いをしっかり残していたことで、幸子さんのご主人の気持ちが変わり、みんなが幸せになる形に収まったのです。

 

これは、お母さんの思いが手紙という形でしっかり残されていたからこその円満解決だったのだと思います。

 

 

株式会社サステナブルスタイル

後藤 光

 

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

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