「国家財政は破綻する」財務次官の矢野論文を評価すべき理由 プラザ合意の会場となった米ニューヨークのプラザホテル。(※写真はイメージです/PIXTA)

財務省事務次官の「矢野論文」が話題になりました。これはいい機会で、財政再建と経済再生のどちらを優先すべきか、政官財学、メディアの各界は大いに論争し、最適解をめざせばいいと思います。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

民間需要の呼び水の役割を果たすべき

矢野さんは同寄稿で、一般会計税収が増えないのに歳出が増え続けることを〈「ワニのくち」が開く〉と論じ、財政破綻危機を警告しています。少子高齢化の日本では税収を増やせるだけの経済成長は無理だ、増税や歳出削減で財政均衡を果たすのが先決だとの主張です。

 

しかし、そんな緊縮財政路線が国民経済を萎縮させ、デフレ病を慢性化させ、肝心の財政収支悪化を招いてきたのではないでしょうか? そして、勤勉な国民は生活を切り詰めて現預金など金融資産を貯め込んできたのです。細る内需に見切りをつけた企業に資金需要は乏しい。そうなるとお金は政府の財政赤字に充当されると同時に、海外の金融市場に回ってドル金利を押し下げます。これで喜ぶのは巨額のドル資金を調達したい中国です。

 

慢性デフレの始まった1997年度末と本年(2021年)度6月末の部門別純金融資産(マイナスは純負債)を確認すると、政府負債と海外の対日負債が家計の純資産によって支えられています。この間の増加額は家計純資産が758兆円で、一般政府純負債が567兆円、海外の対日負債が261兆円です。

 

ここまで述べてきたように、資本主義経済の原則は負債が増えないと資産が増えないということです。デフレ日本では政府が負債を増やすことで家計の資産を増やしています。家計の資産は大きく、政府の負債ばかりでなく海外の負債さえも支えています。そんな国が財政破綻寸前のタイタニック号であるはずはないのではないでしょうか。

 

大切なのは、膨大なお金余りの日本は、政府が国債を発行して将来に向けて先行投資して、民間需要の呼び水の役割を果たすことです。国債金利ゼロのいましか、そのチャンスはないはずです。

 

この私の論に矢野さんはどう応じてくれるのでしょうか、楽しみです。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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    産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

    1946年高知県生まれ。70年早稲田大学政治経済学部経済学科卒後、日本経済新聞入社。ワシントン特派員、経済部次長・編集委員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級フェロー、香港支局長、東京本社編集委員、日本経済研究センター欧米研究会座長(兼任)を経て、2006年に産経新聞社に移籍、現在に至る。主な著書に『日経新聞の真実』(光文社新書)、『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『経済で読む「日・米・中」関係』(扶桑社新書)、『検証 米中貿易戦争』(マガジンランド)、『日本再興』(ワニブックス)がある。近著に『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)がある。

    著者紹介

    連載日本人の給料が25年間上がらない残念な理由

    本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

    「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

    「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

    田村 秀男

    ワニブックスPLUS新書

    給料が増えないのも、「安いニッポン」に成り下がったのも、すべて経済成長を軽視したことが原因です。 物価が上がらない、そして給料も上がらないことにすっかり慣れきってしまった日本人。ところが、世界中の指導者が第一の…

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