(※写真はイメージです/PIXTA)

習近平の「人民元決済拡大」の野望は、「脱ドル」に執念を燃やすロシアのプーチン大統領との連携を必然的に生み出しました。中露協力協定は中露通貨同盟に他なりません。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

「人民元決済拡大」と「脱ドル」の野望

■例によってしたたかな中国

 

習近平政権は臆面もなく二枚舌外交を展開します。ロシアとウクライナに対してはもっぱら「交渉による解決」を求める一方で、西側による対露経済制裁反対を連呼します。

 

中国はもともとウクライナを拡大経済圏構想「一帯一路」の欧州側主要拠点として位置付けてきたばかりではありません。中国初の空母遼寧はウクライナ製を輸入して改良を加えたものである例が示すように、同国を主要な軍装備の調達源としてきました。

 

米軍筋の情報によれば、ウクライナには垂直離着陸機を発注しており、ロシアの軍事侵攻のために同機を組み立てられなくなり、中国軍関係者を慌てさせています。にもかかわらず、ロシアのウクライナ軍事侵攻を非難しようとしません。

 

二枚舌ぶりは習近平の忠実な代弁者、王毅外相の発言を追うと明快です。王毅外相は3月1日、ウクライナのクレバ外相との電話会談で「一国の安全保障が他国の安全保障を犠牲にして達成されるべきではない」「地域の安全保障は、軍事圏の拡大では達成しえない」ときれいごとを並べ立てました。

 

そして3月7日、王毅外相は全国人民代表大会(全人代、共産党が仕切る国会もどき)での記者会見で、「中露の友情は岩のように強固で、中国を抑え込もうとする米国の試みに対抗するための戦略的なパートナーシップであり、世界に平和と安定をもたらすものだ」と習氏に代わって強弁してみせました。

 

時折、党幹部の一部からは習近平のプーチンへの入れ込みぶりを危ぶむ声があるとの情報も北京から流れますが、中露盟約に賭ける習氏の決意は揺らがないのです。

 

繰り返しますが、ドルが基軸通貨の座を堅持できる主な理由のひとつは、世界の石油市場の決済の8割がドル建てであることです。中国は対露協調とは別に、世界のエネルギー取引についてドルに代わる人民元決済の拡大を狙っています。

 

米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙3月16日付電子版によると、サウジアラビアとの人民元決済交渉が6年前から断続的に続いていますが、2022年にはいり弾みがついたとのことです。これはサウジがバイデン政権に不満を募らせていることが背景にあります。米軍のアフガニスタンからの撤退に不信感を強めたばかりでなく、サウジのイエメン内戦への介入への反対、さらにイランとの核合意をめざしていることに不快感を示しているのです。中国はそこにつけ込んでいるというわけです。

 

アラブ最大の石油輸出国サウジは1974四年以来、ニクソン政権との合意に基づき、石油取引はずっとドル建てに限定してきました。しかし、米国の軍事力にのみ頼っていても安全は確保できそうにありませんし、虎の子の石油収入も米国のドル金融政策に振り回されるようでは将来が危ういとの危機感がサウジの王室にはあるのでしょう。だからロシア・プーチンとも、中国・習近平とも組むことを辞さないのです。

 

習政権による人民元決済拡大の野望は、同じく「脱ドル」に執念を燃やすロシアのプーチン大統領との連携を必然的に生み出したのです。対露金融制裁を受けた脱ドル依存の中露協定が象徴します。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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