(※写真はイメージです/PIXTA)

決算書の実践的な読み方として、1つの企業を時系列で見る「時系列分析」がある。異なる年の業績を比較することによって、その数値が大きくなっているのか・小さくなっているのか、その原因は何かを探っていくアプローチだ。本稿では、大手町のランダムウォーカー氏の著書『世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』(KADOKAWA)より、エーザイの時系列分析を紹介しよう。

 

「次の主力製品」が完成するまで本業では稼げないが…

銀行員さん「買収したとはいえ、さすがにそんなにすぐに新薬は完成しないですよね。」

 

学生くん「次の看板製品の開発までに売上が急激に落ちたり、資金が底を突いたりしないんですか?」

 

当然、そんなすぐには主力製品は完成しません。新薬の中でも、がん治療薬は特に時間を要する分野でもあります。なので、「売上が急激に落ちてしまって資金等は底を突かないのか?」という疑問が出てくると思います。

 

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[図表8]新薬はすぐには完成しない (C)OTE_WALK 2022

 

売上が減少して資金が減ってしまうという点について、当然、エーザイは事前に対策を取っていました。その際、どのような資金の動きが見られるのかを今から見ていきましょう。

 

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[図表9]エーザイの現金の推移 (C)OTE_WALK 2022

 

営業活動によるC/Fとは何かというと、本業でのお金の入りのことを表しています。

 

図表9でいうならば、2011年から2013年にかけて、本業の収入が減っているということです。主力製品の特許が切れた結果、売上が減ってしまうと同時に、本業でお金が稼げなくなった状態になっています。

 

一方で、本業で収入が減っているにもかかわらず、FCF(本業によるC/Fと投資によるC/Fを合わせたもの。図表10参照)、いわゆる最終的に企業に入ってくるお金は、実はこの時期に増えているんです。

 

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[図表10]フリー・キャッシュ・フロー(FCF)とは (C)OTE_WALK 2022

 

投資活動によるC/Fを見ると、「本業以外の投資活動でお金を生み出している」ということが読み取れます(図表11)。

 

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[図表11]投資活動によるC/F (C)OTE_WALK 2022

 

本業で入ってこなくなったお金をカバーするために、別のところでお金を生みにいかなければなりません。そのため、自分たちの遊休資産(使わずに持っているだけの資産・いらない土地などの固定資産)を売却したり、持ち合いの株式を売却したりすることによって、現金を調達していたという動きが見えてきます。

 

「なぜ本業でお金が減っているのに、最終的に企業の手元に残る現金は増えているのか」というと、減った分をカバーするだけの打ち手をとっているからです。資産の売却等で、本業での減少影響をカバーすることに成功しているわけですね。

 

その他、製薬メーカーによくあるのは、たとえば製品の支払い債務の支払いの期間を長くしたり、売上債権の回収を早くしたりと、資金繰りを意識して現金を調達するというような動きです。ちょうどこの時期のエーザイの営業活動にも同様の動きが見られます。
 

 

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会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]

会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]

著:大手町のランダムウォーカー
イラスト:わかる

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