(※画像はイメージです/PIXTA)

2022年12月23日に発表された政府の「2023年度税制改正大綱」において、「相続時精算課税制度」に年110万円の基礎控除が導入されることになりました。これにより、制度の使い勝手が向上することが期待されます。しかし他方で、問題視されていた「富裕層優遇」の実態は温存されることになりそうです。どういうことなのか、解説します。

「2023年度税制改正大綱」で相続時精算課税制度の使い勝手が向上?

◆相続時精算課税制度がどのように改正されるか

しかし、2023年度税制改正大綱において、相続時精算課税制度に大きな改正が加えられる見通しとなりました。

 

改正ポイントは、主に以下の2つです。

 

【相続時精算課税制度の改正ポイント】

1. 「年110万円の基礎控除」が導入される(相続時の「持ち戻し」なし)

2. 不動産が贈与後に災害により一定の被害を受けた場合、その分の額を控除できる

 

第一に、年110万円の基礎控除が導入されることです。しかも、相続時の「持ち戻し」は行われません。

 

これにより、資産が値上がりする場合には、より税負担軽減効果が大きくなります。また、現預金や小切手のように資産の価値が変動しない資産についても、相続税評価額が確実に110万円低くなります。

 

さらに、資産が値下がりした場合も、値下がり幅が110万円までであれば損しないことになります。

 

第二に、土地・建物については、贈与後に災害により一定の被害を受けた場合、その分の額を控除することとなりました。

 

これらの改定により、相続時精算課税制度の従来の難点がかなり克服され、使い勝手が格段に向上する可能性が見込まれます。

 

◆「暦年贈与」は使い勝手が悪く

逆に、従来よく利用されてきていた「年間110万円の暦年贈与」(生前贈与の基礎控除)については、使い勝手が悪くなります。

 

「持ち戻し」が従来の「相続開始前3年分」から「7年分」まで拡大されることとなったからです。

背景に「相続税と贈与税の一体化」

以上の改正は、「相続税と贈与税の一体化」という問題意識に基づくものといえます。これについては、与党(自民党・公明党)の「2023年度税制改正大綱」P.16~17において、以下の指摘がなされています。なお、説明の便宜上、順番は変えてあります。

 

1. 高齢世代に資産が偏在しているため、若年世代への移転を促進すべき

2. 現行制度下では富裕層以外の人が生前贈与を行うインセンティブがない

3. 現行の生前贈与の非課税措置(暦年贈与等)は富裕層に有利で格差の固定化につながる

 

以上の問題意識から、「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」が必要だとされているのです。これが「相続税と贈与税の一体化」です。

 

相続時精算課税制度の改正は、主に「1. 」と「2. 」の点を手当するものといえます。

 

すなわち、相続時精算課税制度に「基礎控除」の制度を導入することにより、誰もが、相続税の課税対象となる可能性がある資産の評価額を相当程度の確率で減らすことができます。

 

また、累計2,500万円までの生前贈与については相続時まで課税が繰り延べられ、とりあえず贈与税がかからないので、贈与税の負担を気にせず安心して生前贈与を行うことができます。

 

したがって、相続税の課税の有無、あるいは相続税の負担の軽重に関係なく、高齢世代から若年世代への資産移転を促す土台は、ある程度は整えられたといえます。

次ページ「富裕層優遇・格差固定化」の点は温存される…

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