
賃貸トラブルにはさまざまなものがありますが、なかでも昨今増えているのが「ペット飼育」に関するトラブルです。本記事では、ペット禁止の特約を設定したにもかかわらず「破られた」事例を中心に不動産法務に詳しいAuthense法律事務所の森田雅也弁護士が解説します。
「ペット禁止」の特約を破る入居者…契約解除は可能か
次に、ペット禁止特約違反に基づく賃貸借契約の解除についてみていきます。
昨今、ペットは人間の生活にとって欠かすことのできない存在となってきています。その一方で、ペットの排泄物や毛などで室内が汚れたり、鳴き声や臭いなどでほかの居住者に迷惑をかけてしまう可能性があることは見過ごせません。
そこで、オーナーのなかには、賃貸借契約時に「ペット禁止特約」をつけておき、入居者のペットの飼育を一律に禁止している方も多いかと思われます。入居者がこの特約に違反し、大家さんに無断でペットを飼っていた場合、無条件で賃貸借契約を解除し、入居者に建物から出て行ってもらえるものと思ってしまうかもしれませんが、実はそうではありません。
賃貸借契約は「継続的契約」であり、オーナーと入居者の信頼関係のうえに成り立っているものです。そのため、特約に違反して入居者がペットを飼っているからといって、直ちに賃貸借契約を解除することはできません。特約違反によって「信頼関係が破壊された」という証拠が必要なのです。
「信頼関係の破壊」にまつわる対照的な裁判例
ここでは、入居者のペット飼育が問題となった裁判例を2つ紹介します。
1.信頼関係の破壊が“認められなかった”例
入居者Aが飼育していた犬は、体重2.5キログラム程度の小型犬でした。これまで鳴き声などでほかの居住者や近隣住民に迷惑や損害を与えることもなく、建物を汚損・損傷することもありませんでした。裁判所は、「入居者が建物内でペットを飼育することは、特約に違反するものであるとしても、賃貸人と賃借人のあいだの信頼関係が破壊されたとまでは認められない」として、契約解除を認めませんでした(東京地裁平成18年3月10日判決)。
2.信頼関係の破壊が“認められた”例
入居者Bが飼育していた犬は中型犬で、屋内で飼うことに無理がある犬種でした。また、吠えないような特別な訓練なども施されていませんでした。そのため、その犬は近隣の犬の声に対して吠え返す癖があり、ほかの入居者から苦情を受けていたようです。よって、その事情を考慮し、裁判所は契約解除を認めました(京都地裁平成13年10月30日判決)。
これらの裁判例では、単に小型犬、中型犬という大きさの違いだけではなく、
2.排泄物による臭いやひっかき傷などによる建物の損傷の程度
3.近隣からの苦情の有無
などを考慮しているようです。
まとめ
通常損耗の修繕費用負担に関するトラブルを避けるためには、その修繕を入居者の義務とする具体的な条項を提示して、入居者がきちんと条項を理解できているか確認できるような対策を講じることが得策です。詳細については、弁護士などの専門家にご相談いただいたうえで契約書を作成するなどの方法をとることをおすすめします。
また、ペットの飼育禁止については、特約違反だけでは契約を解除することができない場合もあるため、入居者が無断でペットを飼育していた場合、オーナーはまず入居者にペット飼育の中止を求めることをおすすめします。そうすることで、ほかの契約違反があったときに、ペット飼育禁止の特約違反とあわせて信頼関係が破壊されていると裁判所から判断され、契約解除が認められる可能性が高くなるでしょう。
森田 雅也
Authense法律事務所 弁護士
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