プラザ合意の会場となった米ニューヨークのプラザホテル。(※写真はイメージです/PIXTA)

プラザ合意の影響で急速に円高が進行し、円高不況になります。日銀の低金利政策で日本はバブル経済が生じます。バブルはやがて崩壊し、日本は際限のないデフレ不況で低迷し続けています。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

分岐点になった1985年の「プラザ合意」

新型コロナウイルスのパンデミックが起きたので、消費税増税の悪影響は隠れてしまったところもあります。周知のことですが、日本経済はコロナ・パンデミックが来る前からすごい勢いで落ちはじめていました。だから2020年以降はコロナ不況ではなく、根っこは消費税の増税なので、増税とコロナの複合不況というのが正解です。

 

安倍さんに限らず、他国の指導者もまず経済成長ありきで日々の政治活動に携わっています。経済が低迷して国民が将来に希望を持てないようだと、あっという間に支持を失い、選挙で負けてしまうからです。ある意味で、経済成長よりも財政均衡を重視する日本の政治が、異常なのかもしれません。

 

ただ、日本でも戦後復興のときには、経済成長がどれほど大切かを政治家は皆理解し、共有していたはずです。それがいつの間にか消し飛んでしまったということなのでしょう。かつては所得倍増計画や列島改造計画とか言ってたくらいですから。その後オイルショックを受けての狂乱物価などがありましたが、経済成長は順調に推移していました。大体4%前後の成長率でした。

 

分岐点になったのは恐らく1985年の「プラザ合意」でしょう。

 

私は当時、日経のワシントン特派員で、ニューヨークのプラザホテルの記者会見に出席しました。発表の内容は、アメリカ、イギリス、西ドイツ、フランス、そして日本のG5が、ドル高の是正に向けて協調しようというものでした。その狙いは、ドル安でアメリカの輸出競争力を高め、貿易赤字を減らすことにありました。

 

ところがプラザ合意の影響で急速に円高が進行し、輸出が減少したため、日本の国内経済は低迷しました。円高不況に対応するため日銀は低金利政策を取りましたが、低金利と金融機関の過度な貸出のために不動産や株式など資産価格が高騰し、バブル経済が生じました。

 

バブルはやがて崩壊し、不良債権問題などを経て、いま日本は際限のないデフレ不況という最悪のコースを歩んでいるというわけです。経済成長率は1%前後で低迷しています。

 

話が少し逸れますが、プラザ合意の前、日本の産業はアメリカを凌駕する勢いで伸びていました。とくに半導体に代表されるハイテク分野で、アメリカはこのままでは完全に日本にやられてしまうと、すごい恐怖感を持っていました。

 

それでプラザ合意とほぼ同時期に結んだのが「日米半導体協定」です。この協定で半導体に関して日本は身動きが取れなくなりました。ただ、高い値段で売れるようになって、一時期は潤った。何も努力しなくても販売価格を上げられたわけですから。

 

ところがそれで慢心してしまったのか、ほんとうに何もしなくなった。将来に向けてチャレンジして、テクノロジーを開発して、それで製品力を上げようという起業家精神が半導体業界から失せたのです。それがいまに至っています。恐らく日本製半導体没落の原因のひとつだと思います。

 

財務省と経済ジャーナリズムが財政均衡主義で、彼らの影響が政治家に及んでいることはここまで何度も述べてきました。そして財務官僚は「財政法第四条」に囚われていることも。

 

じつは財務省がいちばん恐れているのは、政治家の要求をのまざるを得なくなり、財政支出を際限なく拡大しなければならない状況になることです。減税をやらされてしまう状況も警戒します。所得税や法人税に頼った状態で、景気が悪くなると減税を要求されます。

 

さらに税収そのものは、景気が悪いために余計に減っています。要するに財政赤字の膨張を受け入れざるを得なくなる。

 

経済成長を壊してはいけないという発想になるのならいいのですが、彼らの悲願はコンスタントな税収が保障されることです。それゆえ彼らは政治家の抵抗が少ない消費税に固執するのです。財務省論理優先で国民の生活が圧迫されるとしたら、本末転倒です。

 

いまの政治家からは経済成長重視の考えが希薄になっていますが、それを打破するのはやはり有権者です。政治家が自ら目を覚ましてくれると一番いいのですが……。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

給料が増えないのも、「安いニッポン」に成り下がったのも、すべて経済成長を軽視したことが原因です。 物価が上がらない、そして給料も上がらないことにすっかり慣れきってしまった日本人。ところが、世界中の指導者が第一の…

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