見る人を「巻き込む」発信法
本当に伝えたいことやリアルな姿を発信する……とはいっても、表現のしかたには気を配っています。表現のしかたとは、言い方をかえれば「見え方」のことです。
情報を発信する際、「自分はこうしたい」にこだわりすぎると、一方通行になってしまうことがあります。自分の思いは大切にしつつ、「だれに届けたいのか」「情報を受け取る相手にはどう見えるか」を考え、それに応じて表現方法を工夫していく姿勢も必要なのではないかな? と思っています。
私のSNSにも、企業からの発信がたくさん流れてきます。よく見かけるのが、新商品のPR。でも、「〇月〇日、新商品××発売!」のような単発の投稿は、なんだかもったいない気がしてしまいます。必要最低限の情報は伝わるかもしれないけれど、アクションにつながるほどの興味を覚えにくいからです。
プロセスを知ることで共感や愛着が生まれる
SNSで新商品のPRをするなら、商品の企画段階から投稿を始めます。
たとえば「ふりかけ」をつくるなら、次のような流れになるでしょうか。
- 「どの魚のふりかけが食べたいですか」と投げかけ、アンケートへの回答を求める。
- アンケートの集計結果を発表。
- アンケートの結果をふまえて試作を始めることを報告。
- 試作の状況を順次発信。
- 試作品が社内NGだったことを報告。
- 問題点を修正し、修正版の試作の状況を順次発信。
- オンラインサロンでテスト販売し、レビューをもらう。
- 商品名に関するアンケートやアイデアの募集
- パッケージに関するアンケートやアイデアの募集
- 完成の報告と発売の告知
アクションにつなげるためのポイントは、ゴールだけでなく、プロセスも共有していくことだと思います。いきなり「新製品のふりかけ・10月1日発売!」と言われても、「どこかで見かけたら買ってみてもいいかな」ぐらいの反応が普通でしょう。
でも開発の過程がリアルタイムで投稿され、一度でもアンケートやアイデア出しに参加していたら? なんとなく「皆でつくったもの」という愛着が生まれます。
「ついに完成しました!」なんて投稿を見たら、関わった者としてうれしくなり、食べてみたいと思う人も少なくないのではないでしょうか。
子どもの頃のことですが、動物園の「動物の赤ちゃんの名前募集」に応募したことがあります。結果が発表されるまでずっと、動物園からの「あと〇日で締め切りです」「応募総数は〇通でした」といった発信をワクワクしながら追っていました。
残念ながら私の案は採用されませんでしたが、だからといって興味が薄れることはありませんでした。その後もテレビ番組やニュースなどでその動物園がとり上げられるとなんだか気になり、そのたびに「あの赤ちゃんは大きくなったかな?」などと考え、会いに行ってみたい、と強く思いました。
私たちの情報発信も、これと同じです。自分がアクションを起こして関わったことに対しては当事者意識が芽生えるし、いったん愛着を覚えたものに関する情報は価値が高まるのではないかと思います。また私たちにとっても、お客さまのニーズを知り、愛される商品づくりにつなげていけるのはうれしいものです。
森 朝奈
株式会社寿商店
常務取締役